駸々しんしん)” の例文
「今の例は、昔の新儀だった。ちんの新儀は、また後世の先例となろう。藤房、そちには駸々しんしんたる時勢の歩みがわからんとみえるな」
中には粉末の腐骨が残されていて、肉の疲れを見すまし黴菌は駸々しんしんと周囲を腐蝕し始めます。外部の黴菌もこれに呼応します。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
一時駸々しんしんとして動き始めるかと見えた「文芸」復興から、取り残されるように見えたのは、何故か独り科学だけだったのだ。
しかして兵器の進歩は今日にあっても駸々しんしんとして底止するところを知らず、今後果して那辺なへんにまで及ぶべきや、ほとんど予想すべからざるものがある。
世界平和の趨勢 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
筏船は駸々しんしんと走って来る。歌のような帆鳴りの音がする。泡沫しぶきがパッパッと船首へさきから立つ。船尾ともから一筋水脈みおが引かれ、月に照らされて縞のように見える。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
過ぐる五十年間に万国の貿易は駸々しんしん隆盛の域に進み、その額八倍するに至れり。すなわち左のごとし。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
「石狩ハ全道ノ中央ニアリ、四方ヲ控制スルニ便ナルヲ以テ、鎮府ヲココニ建テ、分散紛擾ふんじょうノ弊ナク、北虜駸々しんしん日ニ進ムノ勢ヲ抑ヘテ北門ノ鎖鑰さやくハジメテ固カラン」
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
彼は駸々しんしんと滲み出して来る無量の淋しさと、頼りなさに、自分の身も心も溺れそうな気がした。
禰宜様宮田 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
文明の進歩駸々しんしんとして我党の空想を実にしたるのみか、かえってその空想者の思い到らざる所にまで達して、遂に明治の新日本を出現したるこそ不思議の変化なれ、望外ぼうがい仕合しあわせなれ。
物質的の文明駸々しんしんとして進み、明治の天地は全く別世界の観を呈するに至りたると同時に、人民一般に物質的快楽あるを知りて、理想的快楽あるを知らざるの弊、日一日よりはなはだしきに至れり。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
位置をかえて、城頭から望めば、駸々しんしんと迫って来る兵馬の奔流と、千瓢せんぴょう馬印うまじるしは、さらに、手に取るように見えているはずである。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それにも拘わらず爾来じらい女子教育の発達は駸々しんしんとして進み、なかんずく米国の如きは最も隆昌の域に達し、女子は男子と等しく如何いかなる高等教育をも受け得
現代の婦人に告ぐ (新字新仮名) / 大隈重信(著)
駸々しんしんと水泳場も住居をも追い流す都会文化の猛威もういを、一面灰色の焔の屋根瓦に感じて、小初は心のずいにまでおびえを持ったが、しかししばらく見詰みつめていると
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ここは外海の九十九里ヶ浜で、おりから秋の日暮れ時、天末を染めた夕筒ゆうづつが、浪たいらかな海に映り、物寂しい景色であったが、一隻の帆船が銚子港へ向かって、駸々しんしんとしてはしっていた。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
山陰山陽両方面とも、今日までの戦況では、遺憾ながら秀吉の精鋭の駸々しんしんたる攻勢に利があって、毛利方に戦捷せんしょうがあったとはいいがたい。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
右に曲がり左に曲がり、時にはグルリと後返りをし、駸々しんしんとして進んで行く。その様子が、眼には見えないが一定の航路が出来ていて、その航路に従って進んで行くように思われる。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
けれど曹軍の怒濤は、大河を決するように、いたる所で北国勢を撃破し、駸々しんしん冀州きしゅうの領土へいこんで来た。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どうしたら住みよいホッタテ小屋を、建てることが出来るかという談合をな。……大勢は駸々しんしんとして進んで行くよ。そうともそうとも成就に向かってな。適せない物は自然に亡びる。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
……しかし年を経て、彼の勢力が駸々しんしんと諸州に根を張るようにでもなったすえには、一朝いっちょうには仆せますまい。なぜなら前に北条の仆れたてつを見ておりますから
落ち込む水をすぐ捉らえて、漏斗に入れられた酒や水が漏斗形にグルグル廻りながら下の容器いれものにしたたるように捉えられた水は穴の内面を眼にも止まらぬ勢いで漏斗形に駸々しんしんと馳せ廻り
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
やがて方向はそれによって駸々しんしんと支障もなく流れだした。しかしその進路にはまた伏兵のうごきが見え、その動きはいよいよ執拗しつように、いよいよふえるばかりだった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
若殿のご座船を先頭に、二十隻の船は駸々しんしんと、湖水の波を左右に分け、神宮寺の方へ進んで行ったが、やがて目的の地点まで来ると、頼正は扇で合図をした。二十隻の船はピタリと止まる。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
時に、秀吉の羽柴軍はすでにとち峠の国境を続々越え、この府中と一路つながる板取、孫谷、落合などへ駸々しんしんと近づきつつあったことは、まだここには分っていなかった。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
張教仁は暗い車内の、クッションへ腰を掛けたまま、事の意外に驚きながらも、覚悟を極わめて周章あわてもせず、眼を閉じて運命を待っていた。どこをどのように走るのか、自動車は駸々しんしんと走って行く。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
駸々しんしん、船底を破って溢れて来る清水のように、見るまに、全陣地は、上杉兵に散らされ、そこやここに、惨として、すでにしかばねとなっている幾多の兵の紅に、霧のれ間から、かっと
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三隻ながら駸々しんしんと、薩摩へ向かってはしっている。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
きのう北国の上杉勢をむかえて甲信の境に戦っているかと思えば、きょうは上州や相州に出て北条家をおびやかし、また忽ち転じては、三州遠州美濃までも兵火を放って駸々しんしんとやってくる。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
船は駸々しんしんと流れて行った。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
この時を境としてても、時代はあきらかな推移を告げていたのだ。文化は駸々しんしんと進んでいる。西力——南蛮船なんばんせんによる文化の東漸とうぜんは——火薬、鉄砲などの武器に大変革を起していたのである。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今や樊川はんせんの曹仁が、駸々しんしんと堺に迫りつつある事態を告げ、出でてこれを迎撃し、さらに敵の牙城がじょう樊川を奪り、もって、蜀漢の前衛基地としてこの荊州を万代のやすきにおかねばならないと演説した。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
四世五十二年にわたる呉の国業も、孫皓そんこうが半生の暴政によって一朝に滅んだ。——陸路くがじを船路を、北から南へ北から南へと駸々しんしんと犯し来れるもののすべてそれは新しき国の名を持つしんの旗であった。
三国志:12 篇外余録 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
武器、兵糧、馬、物具などを収めて、駸々しんしん斜谷やこくを取りひろげ、やがて西城を占領して後、さらに次の作戦に入ろう。——西城は山間の小県ではあるが、あれには蜀の兵糧が蓄えてあるに相違ない。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
駸々しんしんとして白浪を蹴っている。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)