逐電ちくてん)” の例文
汝のごときは、その場から逐電ちくてんして今日こんにちにいたった不届き者、復職などはまかりならん。もってのほかな願い。とッとと退がりおろう
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あいつ、大阪を逐電ちくてんしたが、今度参ったなら、元々へ戻るよう、よく申し聞かせておいてやれ。よく働く——親爺に似て、なかなかの才物じゃ」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
あれは天正てんしょう十一年に浜松はままつ逐電ちくてんした時二十三さいであったから、今年は四十七になっておる。太いやつ、ようも朝鮮人になりすましおった。あれは佐橋甚五郎さはしじんごろうじゃぞ
佐橋甚五郎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
どんな重い仕置しおきをうけるかも知れないと恐れられて、彼はその場からすぐに逐電ちくてんしてしまった。
半七捕物帳:37 松茸 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
掛て引すゑ九郎兵衞夫婦村役人周藏喜平次木祖兵衞三五郎下伊呂村名主藤兵衞組頭惣體そうたい引合人殘らず罷り出村役人よりさんぬる廿四日節儀せつぎ逐電ちくてんいたせし旨屆け出一同外記げきが出席を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
甚三が夜のうちに逐電ちくてんしたと云ううわさが聞え出して笛の音は一時、ばったりと絶えた。
かやの生立 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
彼は、父衣笠貞之進の上役、佐伯五平を暗打ちにかけようとして、流石さすが、年のゆかぬ彼、まんまと斬りそこね、その場から家も、母親も、弟も捨てて、何処いずこともなく逐電ちくてんしてしまったのだった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
いざと云う時、貴女を棄てて逐電ちくてんでもすりゃ不実でしょう。胴を据えて、覚悟をめて、あくまで島山さんが疑って、重ねて四ツにするんなら、先へ真二まっぷたツになろうと云うのに、何が不実です。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
娘——と稱した、妾のお琴は、逐電ちくてんして行方知れず。
「藤次とふたりで、去年の暮、世帯をたたんで他国へ逐電ちくてんしてしまったんです。わたしはその前からお養母っかさんとは別れて……」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
陰謀の与党の中で、筆者と東組与力渡辺良左衛門わたなべりやうざゑもん、同組同心河合郷左衛門かはひがうざゑもんとの三人は首領をいさめて陰謀をめさせようとした。しかし首領が聴かぬ。そこで河合は逐電ちくてんした。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
家来の逐電ちくてん、おまけに路用の百両が紛失しては、甲州へ出発することも出来ず、さすがの殿様も途方にくれ、屋敷の者共はただ茫然としているところへ、町奉行所からの沙汰があって
半七捕物帳:51 大森の鶏 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
後々の語り草にもなったように、熊谷はその場でもとどりを切って逐電ちくてんし、法然ほうねん上人の許で、名も蓮生坊れんしょうぼうとかえ、生涯、弓矢を捨ててしまったのだ。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小野は丹後国にて祖父今安太郎左衛門いまやすたろざえもんだいに召し出されしものなるが、父田中甚左衛門じんざえもん御旨おんむねさかい、江戸御邸より逐電ちくてんしたる時、御近習ごきんじゅを勤めいたる伝兵衛に、父を尋ね出して参れ
興津弥五右衛門の遺書 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
いっそ此の百五十両を持って逐電ちくてんしてしまった方がましかも知れないと途中でいろいろ考えた挙げ句に、とうとう伊藤へも行かず、もちろん屋敷へもかえらず、そのまま姿をかくしてしまったのです。
半七捕物帳:42 仮面 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それがいま、日頃の訓誡くんかいをやぶって逐電ちくてんしたのであった。あきらかにこれは老公が裏切られたかたちといえる。やりばのない憤りを抱いておられるか。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それを抱えて途中から逐電ちくてんしたらしい。
半七捕物帳:47 金の蝋燭 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
食うはしには腕力の要がない。豪傑も案外、職を失うと世間に弱い。逐電ちくてんの後の魯達ろたつは、野に伏し山にね、今は、空き腹も馴れッ子のような姿だった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
譜代の下人げにん召使めしつかひにも見離され、足にまかせての逐電ちくてん也。われと我が草履を取るばかりにて、徒歩かちはだしのすがた、昨日はゆめか、見る目も哀れの有様とぞ。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「うそをいっても、こちらには、分っている。おまえは、郷里を荒らし抜いて、多くの人に恨みをうけ、家名にも、泥をぬって、逐電ちくてんしている身じゃろうが」
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「知事。これではもう、犯人宋江の兇悪さは、疑う余地もありますまい。それにあれきり宋江は役署へも出てまいりません。悪くすると逐電ちくてんのおそれもある」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いや彼は、旧悪のおおいようなく、進退きわまって、逐電ちくてんするであろうとか。何、昨夜、自邸にもどって自刃したとか、騒然たる臆説が町に乱れとんでおりまする。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
金三両と小袖を盗んで、逐電ちくてんしてしまったという——まるで信じられないような話が伝えられたのだった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
軍律ぐんりつをもって陣屋追放をうけたというから、そこで呂宋兵衛は、もちまえの盗賊化とうぞくかして、これから他国へ逐電ちくてんするゆきがけの駄賃だちんとでかけているところであろう。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
数正との約をやぶり、数正逐電ちくてんの秘密を事前に知ってしまった以上、とどまる松平近正は、かならず、急を浜松に報じて、身の潔白をあかし立てるに利用するだろう。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
のみならず、あげくには長年の家臣末吉真吾すえよししんごという者の恋女房を奪って逐電ちくてんしてしまったのである。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
金井一角の都合四人づれで身の廻りの物だけを取りまとめ、久八の部屋から逐電ちくてんしてしまった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
察するところ、何故か、ふたりして心をあわせ、ご当所を逐電ちくてんいたしたらしく考えられますので
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「待て待て。……では、浜松を逐電ちくてんいたして、御詮議中ごせんぎちゅうとかいうのは、貴公のことだったか」
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
祇園藤次が逐電ちくてんしてしまうやら、また家政のがんはこの年暮くれへ来ていよいよ重体なもようとなり、日々、掛取に押しかけられるようで——清十郎の心は、心構えを持ついとまがない。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
僧の妙吉みょうきつがいつのまにか逐電ちくてんしていたのである。ために妙吉だけは、この朝、師直方へ引渡されずに終っていた。のみならず以後も長くこの怪僧はついに姿を現すことがなかった。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
国表を逐電ちくてんされてしまった当座は、並ならぬご立腹であったには相違ないが、鐘巻自斎先生のご助力があったため、以来すッかり福知山の松平家で腰を折ってしまったので、自然
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
逃げ込んだ卑怯者は、六年前、御当所を逐電ちくてんした深見格之進でござりますぞ。
夕顔の門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
家臣の福原主水が、女の意趣とか何とか、言語道断な沙汰で、同僚の者を暗殺した上、藩用を詐称さしょうして、城下の町人から急場の金を借り、それを持って、今暁、津軽領から逐電ちくてんしてしまった。
(新字新仮名) / 吉川英治(著)
誇って、そのまま逐電ちくてんしたとも云う。——これはいつわりであろう筈はない
夏虫行燈 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『武器講の金を蓄え置き、逐電ちくてんしたものでござろう』
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「よもぎの寮」のお甲と逐電ちくてんしてしまった。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
驚け、あわてろ、逐電ちくてんの支度をしろ。
八寒道中 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
伯耆ほうきどのが逐電ちくてんした」
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)