貼札はりふだ)” の例文
従って、屡々しばしば自分の頂戴ちょうだいする新理智派しんりちはと云い、新技巧派と云う名称の如きは、いずれも自分にとってはむしろ迷惑な貼札はりふだたるに過ぎない。
羅生門の後に (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それのみではない。保さんは父が大きい本箱に「江戸鑑えどかがみ」と貼札はりふだをして、その中に一ぱい古い「武鑑」を収めていたことを記憶している。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
湯の中で泳ぐものは、あまりあるまいから、この貼札はりふだはおれのために特別に新調したのかも知れない。おれはそれから泳ぐのは断念した。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
Kがまだ貼札はりふだの前に立っていると、一人の男が階段を登ってきて、開いた扉から居間をのぞきこんだが、そこからは法廷も見えるのだった。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
私はまたこういう静な坂の中途に小じんまりした貸家を見付ると用もないのに必ず立止っては仔細しさいらしく貼札はりふだを読む。
……新坊、小母さんのひざそばへ。——気をはっきりとしないか。ええ、あんな裏土塀の壊れ木戸に、かしほんの貼札はりふだだ。……そんなものがあるものかよ。
絵本の春 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
きとかえりの船床の番号だの、貼札はりふだだの、海外の諸国を廻ったそれらの印の附いた鞄の中からは、岸本が巴里パリの下宿の方でさんざん着た和服の類が出て来た。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
折々おり/\、西洋奇術の貼札はりふだが紅いへらへら踊の怪しい景氣をつけるほかには、よし今のやうに、アセチリン瓦斯をけ、新たに電氣燈でんきをひいて見たところで、格別
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
二丁目三丁目と下がりては戸ごとに「徴発ニ応ズベキ坪数○○畳、○間」と貼札はりふだして、おおかたの家には士官下士の姓名兵の隊号人数にんずしるせし紙札を張りたるは
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
小川町辺をがはまちへん御邸おやしきまへ通行つうかうすると、御門ごもん潜戸くゞりど西にしうち貼札はりふださがつてあつて、筆太ふでぶとに「此内このうち汁粉しるこあり」としたゝめてあり、ヒラリ/\と風であほつてつたから
士族の商法 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
「仲裁無用」かの松の樹の貼札はりふだの下まで来て突っ立って、じっとこの果し合いを見ている。
既にその病がお染と名乗る以上は、これに凴着とりつかれる患者は久松でなければならない。そこでお染の闖入ちんにゅうを防ぐには「久松留守ひさまつるす」という貼札はりふだをするがいいということになった。
二階から (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「おやしきへ参って、この貼札はりふだを見、思わず声を揚げたのでございます」
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
もつともそれが全部でなくとも或いちじるしい部分を表してゐる時、批評家にさう云ふイズムの貼札はりふだをつけられたのを許容きよようする場合はありませう。
むしろが雑然と積んである。表に「自転車無料であずかります」と貼札はりふだしてある。この道七、八丁。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
夜が明けると斯様かような者が殺害せつがいされている、心当りの者は引取りに来いという貼札はりふだが出る。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
奥深い邸の門に貼札はりふだが見えたのです——鷺流狂言、開興かいこう
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
然れどももし道楽以上の貼札はりふだを貼らんとするものあらば、山陽さんやうを観せしむるにかず。日本外史にほんぐわいしかくも一部の歴史小説なり。画に至つてはゑつか、つひにつくねいもの山水のみ。
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)