貴顕きけん)” の例文
二階の正面に陣取じんどって、舞台や天井てんじょう、土間、貴顕きけんのボックスと、ずっと見渡した時、吾着物の中で土臭つちくさからだ萎縮いしゅくするように感じた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
新政府にし、維新功臣の末班まっぱんに列して爵位しゃくいの高きにり、俸禄ほうろくゆたかなるにやすんじ、得々とくとくとして貴顕きけん栄華えいが新地位しんちいを占めたるは
今でこそ、画聖とあがめられ、名宝展などで朝野の貴顕きけんに騒がれようとも、応永の昔の雪舟は高が雲水乞食に過ぎないのである。
故郷に帰りゆくこころ (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
華族と云い貴顕きけんと云い豪商と云うものは門閥もんばつの油、権勢けんせいの油、黄白こうはくの油をもって一世をさかしまに廻転せんと欲するものである。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その他は、どんな貴顕きけんの門であろうと官庁のおごそかを見ようと、驚きはしない。彼の叛骨は、かえってせせら笑いを催してくる。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一時の奇貨きかも永日の正貨せいかに変化し、旧幕府の旧風をだっして新政府の新貴顕きけんり、愉快ゆかいに世を渡りて、かつてあやしむ者なきこそ古来未曾有みぞう奇相きそうなれ。
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
善美を尽した御座船が中流に浮んで、貴顕きけん淑女雲の如く斡旋あっせんする中に、ジョージ一世は玉杯を挙げて四方の風物を眺めながら、水と共にテームズを降った。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
先方せんぱうでは貴顕きけんのお客様きやくさまですから丁寧ていねい取扱とりあつかひでございましておかみかたはお二階にかいあるひ奥座敷おくざしきといふのでわたくしつぎのお荷物の中の少々せう/\ばかりの明地あきちかしていたゞく事にあひなりました。
牛車 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
やがてまた、この身も、僧都となり、僧正となり、座主ざすとなり、そして小人の嫉視しっしと、貴顕きけんの政争にわずらわされ、あたら、ふたたび生れ難き生涯を
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わたくしも少しおどろきまして、此分このぶんではとてこと出来できまいと困りましたから、わたし日頃ひごろ御贔屓ごひいきあづかりまする貴顕きけんのおかたところまゐりまして、みぎのお話をいたしますると、そんならばさいはひわたくしくから
牛車 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
都は貴顕きけんの、びんろう毛車や花漆はなうるしのあじろ車で、どこにそんな飢えがあるかのようにしか眺められない。
すくなくも当時の貴顕きけんがこんなところまで旅するには、よほどな覚悟と目的がなければできなかった。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ピオの目的は、関東京坂の貴顕きけんの間にとり入って、徐々と曙光を見、晩年には実行の端緒にはいった。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
また同日を期して、このたびの大戦大勝の賀をのべる貴顕きけんの馬やら車やらが混み合って、三条洞院とういんの四ツ辻に、仕丁しちょうたちの間で“くるま喧嘩”が起るほどな騒ぎだった。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それが帰ったと思うと、佐々成政さっさなりまさが立ち寄り、蜂谷頼隆はちやよりたかが訪い、市橋九郎右衛門と不破河内守ふわかわちのかみが同道して見え、京都の貴顕きけんから使いやら、近郷の僧俗から、種々くさぐさの物を持って
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
よほど貴顕きけん堂上人どうじょうびとでも見えられるのであろうと、誰もが想像していたふうであった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「これが、きのうまで、わが世の春を誇っていた貴顕きけんか」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)