裏梯子うらばしご)” の例文
で、黙って日本一太郎について、その、ぎしぎしいう裏梯子うらばしごを踏んで木の腐ったようなにおいのする風呂場へおりて行った。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
注意してそつと自分のかくを出た私は、眞直に臺所につゞいてゐる裏梯子うらばしごの方に出た。臺所中は火と騷ぎで一ぱいだつた。
よいあかりが点くと間もなく、お由は何時いつもの通り裏梯子うらばしごから、山名国太郎やまなくにたろうが間借りをしている二階へ上って来たのであった。
白蛇の死 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「駒田さん。ちょいと。」と女中が裏梯子うらばしごの方へ引張って行って、「お北ねえさん。丁度二本になりますから、もう帰してもよろしいでしょう。」
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ちょっとあたりを見廻してから、部屋を出ると廊下へかかり、裏梯子うらばしごを下りると裏口から、雪のたまっている往来へ出た。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
裏梯子うらばしごを降りて、姉さん(嫁のお鈴)の部屋をのぞくと、灯が點いて居なくて、月あかりの中に、倒れて居る樣子なので、聲をかけ乍ら——覗くと
ふすまを開けて、裏梯子うらばしごまで出て来ると、階下したからどかどかと駈け上って来た松代藩の武士が、途中で、真黒にかたまって
銀河まつり (新字新仮名) / 吉川英治(著)
久しぶりで親子水入らずで、お茶をみバナナを食べながら、そんな話をしているうちに風呂ふろ支度したくが出来、均平は裏梯子うらばしごをおりて風呂場へ行った。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
どこかの地階にある煙草店たばこやの葉巻のにおいや、居酒屋や、汚水でびしょびしょになった上に、卵の殻の散らかっている、いつもほとんど真暗な裏梯子うらばしご……と
私は新しい着物を着せられ、娘は桃色の扱帯しごきのまま、また手を曳いて、今度は裏梯子うらばしごから二階へあがった。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何分、朝のはやい役者を泊めている家、すっかり寝しずまっていることゆえ、裏梯子うらばしごを、かまわず上り下りしたところで、見とがめる目も耳もあるはずがなかった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
という事実をやっと意識した彼は、いつも村井に会いに行く時の習慣を無意識のうちに繰返しながら、トラックの出口から中庭へ這入って、編輯局の裏梯子うらばしごを登った。
富岡はゆつくり片づけてゐる、ニウの様子にやりきれない淋しさになり、裏梯子うらばしごから標本室の方へ降りて行つた。標本室に燈火をつけて、円い木の椅子に、腰を掛けた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
波瑠子は店へは顔を出さずに、非常口から裏梯子うらばしごを伝ってみのりを捜しに行ったが、少女が部屋に見えなかったので、小楊枝こようじの先で障子に点字を書き残してふたたび店へ戻った。
宝石の序曲 (新字新仮名) / 松本泰(著)
しかし大剣は空をって障子を裂き、伊兵衛は裏梯子うらばしごのほうへ走っていた。
夜明けの辻 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
廊下へ出て耳を澄して見たが、三味線さみせんは聞えても、矢張やっぱり歌が能く聞えない。が、いよいよ例のに違いないから、私は意を決して裏梯子うらばしごを降りて、大廻りをして、こっそり台所近くへ来て見ると、たれも居ない。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「なぜ、裏梯子うらばしごから上っていらっしゃらないの」
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
部屋の入口にはってあった奇妙な札へ、かたみ代りの批評をいって、そのままトントントンと裏梯子うらばしごから風呂場へ降り、ぬぐとすぐに飛びこんで
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いや、あの時お前は裏梯子うらばしごの下で、見張りをして居た筈だ。そして店の八疊に三人、何處へも出ずに、顏を並べて居たと僞の證人にもなつた筈だ」
前後のかんがえもなく電話をかけて見ようと裏梯子うらばしごを降りかけた時、表口の方で誰かお客の来たらしい物音がした。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
が、入交いれかわるのに、隣の客と顔が合うから、私は裏梯子うらばしごを下りて、鉢前はちさきへちょっと立った。……
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
道太は掃除の邪魔をしないように、やがて裏梯子うらばしごをおりて、また茶のの方へ出てきた。
挿話 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
狭い、勾配こうばいの急な裏梯子うらばしごを上り切ったところの細長い板の間は、突き当たりに厚いカーテンがかかっていて、古椅子ふるいすや古テーブルなどを積み重ね、片側をわずかに人が通れるだけ開けてある。
宝石の序曲 (新字新仮名) / 松本泰(著)
青年はその一人にも出会わなかったので、しごく満足のていで門からすぐ右の階段口へ目立たぬようにすべりこんだ。階段は暗くて狭い『裏梯子うらばしご』だった。が、彼はもう万事心得て研究しつくしていた。
ぴしゃっとふすまの音が八十三郎の顔へ風を残した。もう露八はそこにいなかったのである。どん、どん、どんと裏梯子うらばしご跫音あしおと階下したへあらく消える。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私が裏梯子うらばしごを降りて來ると、お店の方からお内儀かみさんが飛んで來て、もう少しで鉢合せを
「二番の部屋といったっけな」裏梯子うらばしごを上がって隣り座敷へ、そっと細目の隙見すきみうなぎなりに寝そべっている。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「お神さんの部屋から飛出して、向うの裏梯子うらばしごの方へ行く者があります」
手燭も持たず、裏梯子うらばしごを降りる。け縁を渡る。大谷石おおやいしの段を三つ踏む。あつい欅戸けやきどががらがらと開いた。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すると、裏梯子うらばしごの下で
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)