袋戸棚ふくろとだな)” の例文
寝床の敷いてある六畳の方になると、東側に六尺の袋戸棚ふくろとだながあって、そのわき芭蕉布ばしょうふふすまですぐ隣へ往来ゆきかよいができるようになっている。
変な音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
とこわきの袋戸棚ふくろとだなに、すぐに箪笥たんす取着とりつけて、衣桁いかうつて、——さしむかひにるやうに、長火鉢ながひばちよこに、谿河たにがは景色けしき見通みとほしにゑてある。
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
本陣の奥座敷では床上ゆかうえがもり、袋戸棚ふくろとだなへも雨が落ちた。半蔵は自分の家のことよりも村方を心配して、また町内を見回るために急いでしたくした。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それじゃ、袋戸棚ふくろとだなけて、お皿を一枚持って来てごらん、どれでもいい。もしお前さんが、ちゃんと皿拭布さらふきんをかけたというなら、この曇りかたはどうしたんだろう。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
総桐そうぎり箪笥たんすが三さおめ込みになっており、押入の鴨居かもいの上にも余地のないまでに袋戸棚ふくろとだなしつらわれ、階下したの抱えたちの寝起きする狭苦しさとは打って変わって住み心地ごこちよく工夫されてあった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
下女が座敷の袋戸棚ふくろとだなより見付出し候が然ればとて何處の何某なにがしいふ御人なるか聞ても置ねば御屆け申べき便たよりもなし併し言葉遣ひは中國筋の御人と見請たれば其後は中國ちうごく言葉の御客と見る時は若や斯樣かやうの人は御存じなきや御逢成る事も有らば其の節取落とりおとされし印籠は私し方に確におあづかり申置候へば此由を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
寢床の敷いてある六疊の方になると、東側に六尺の袋戸棚ふくろとだながあつて、其傍そのわき芭蕉布ばせうふふすまですぐ隣へ徃來ゆきかよひが出來るやうになつてゐる。
変な音 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
下痢も止まったばかりで、彼はまだ青ざめた顔をしていたが、それでもお民に手伝わせて部屋へやの内を掃き、袋戸棚ふくろとだなに続いている床の間を片づけた。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
床の間や袋戸棚ふくろとだなも中へくり取ってあり、美しい装飾が施されてあった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そうして、月に一二度ぐらいずつ袋戸棚ふくろとだなから出して、きりの箱のちりを払って、中のものを丁寧ていねいに取り出して、じかに三尺の壁へけては、眺めている。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と言って、半蔵は一幅の軸を袋戸棚ふくろとだなから取り出した。それを部屋へやの壁に掛けて正香に見せた。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
時計の右が壁で、左が袋戸棚ふくろとだなになっていた。その張交はりまぜ石摺いしずりだの、俳画だの、扇の骨を抜いたものなどが見えた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
時計とけいみぎかべで、ひだり袋戸棚ふくろとだなになつてゐた。その張交はりまぜ石摺いしずりだの、俳畫はいぐわだの、あふぎほねいたものなどがえた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
うん鉄砲玉を買って来るから、悪戯いたずらをしてはいけないよと云いながら、そろそろと懸物を巻いて、桐の箱へ入れて、袋戸棚ふくろとだなへしまって、そうしてそこいらを散歩しに出る。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「いゝえ、いの」と正直しやうぢきこたへたが、おもしたやうに、「つて頂戴ちやうだいるかもれないわ」とひながらがる拍子ひやうしに、よこにあつた炭取すみとり退けて、袋戸棚ふくろとだなけた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「いいえ、無いの」と正直に答えたが、思い出したように、「待ってちょうだい、あるかも知れないわ」と云いながら立ち上がる拍子ひょうしに、横にあった炭取を取り退けて、袋戸棚ふくろとだなを開けた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)