むし)” の例文
乏しい中から下谷の伊予紋いよもん(料理店)へよって、口取りをあつらえたり、本郷の藤村へ立寄ってむし菓子を買いととのえたりして訪れていた。
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
雪頽なだれといふ事初編しよへんにもくはしくしるしたるごとく、山につもりたる雪二丈にもあまるが、春の陽気やうきしたよりむし自然しぜんくだおつる事大磐石だいばんじやくまろばしおとすが如し。
海の南風みなみかぜをうけている浜松の夏は、日盛りでもどこか磯風の通う涼しさがありましたが、夜は海の吐き出す熱気ねっきのために、却ってむし暑い時もあるのでした。
虫干し (新字新仮名) / 鷹野つぎ(著)
単物ひとへものからセルへうつる時候で、生憎あひにく其日はむし熱いので、長い幕合を涼みがてら廊下に出て居る人が多かつた。
二黒の巳 (新字旧仮名) / 平出修(著)
たゞこのむし暑い日に其処そこではどんなに涼しさが得られるか知れないと云ふ気がしたのと、ルウヴルが終点であるから降りるのに心配がないと思ふからでもあつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
蒸す代りに湯煮ゆでて湯松茸にしてこうするのもありますがこの湯煮ゆで加減やむし加減が少し工合ぐあいもので足りなくてもならず過ぎてもならずちょうど好い程にしないと味が出ません。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
長女のマサ子も、長男の義太郎も、何か両親のそんな気持のこだわりを敏感に察するものらしく、ひどくおとなしく代用食のむしパンをズルチンの紅茶にひたしてたべています。
おさん (新字新仮名) / 太宰治(著)
なお、この巻(五二四)に、「むしぶすまなごやが下に臥せれども妹としねばはだし寒しも」
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
今までの主食はクラシックで、この節毎日のようにっている粉食はロマンチックだ。いいかね。米の飯は国粋かね。先ず固有なもので、メリケン粉のむしパンは外来的のものだ。
お母さまは茶椀蒸がおすきだが、いつでも、料理屋でこしらえたのよりは、文治郎の拵えたのが宜しいと仰ゃってあがるから、むしを拵えましょう…蒲焼かばやき小串こぐしの柔かいのと蒲鉾かまぼこの宜しいのを取ってこい
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
着物をぎ換えて膳に向ふと、膳のうへに、茶碗むしと一所に手紙が一本載せてある。其上封うはふうを見たとき、三四郎はすぐ母から来たものだと悟つた。済まん事だが此半月あまり母の事は丸で忘れてゐた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「長者の言うことを聴かなけりゃあ、布団むしにしてこらして遣れ」
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
雪頽なだれといふ事初編しよへんにもくはしくしるしたるごとく、山につもりたる雪二丈にもあまるが、春の陽気やうきしたよりむし自然しぜんくだおつる事大磐石だいばんじやくまろばしおとすが如し。
此雪こほりて岩のごとくなるもの、二月のころにいたれば陽気やうき地中よりむしとけんとする時地気と天気とのためわれひゞきをなす。一へんわれ片々へん/\破る、其ひゞき大木ををるがごとし。これ雪頽なだれんとするのきざし也。