落雁らくがん)” の例文
見に行くと、——八五郎親分御苦勞樣、本當に恩に着ますよ、お茶が入りましたから、どうぞ——つて、小菊に包んで落雁らくがんを五つ——
今まで堅い岩でできていたものが、突然土か灰か落雁らくがんのようなものに変わってそのままでするするとたれ落ちたとしか思われない。
Liber Studiorum (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
鐘は鉄面皮にもいつもよりは大きい声で、わめくやうに鳴つた。困つたのは堅田かただ落雁らくがんで、幾度往つて見ても雁はそこらに見えなかつた。
広い境内を掃くのを、栄蔵や金ちやんが手伝つてあげると、このお坊さんは喜んで、いつも檀家だんかから頂いた饅頭まんぢゆう落雁らくがんをくれるのであつた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
わかい女が持出した、金蒔絵きんまきえの大形の見事な食籠じきろう……がたの菓子器ですがね。中には加賀の名物と言う、紅白の墨形すみがた落雁らくがんが入れてありました。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
世話やきの子供が幾人かで、全校の生徒の机の上に、落雁らくがんを一個二個ずつ配ると、こんどは巻せんべを添えて廻る。その次は瓦煎餅かわらせんべという具合にしてききるのだ。
中には金魚が落雁らくがんを食ったような美少年も多く、南方先生「大内の小さ小舎人ことねりててにや/\」てふ古謡をおもい起し、寧楽なら・平安古宮廷の盛時を眼前に見る心地して
白石はくせき手簡しゆかんに八景のはじめは宋人か元人かにて宋復古と申す畫工云々とあるが、それは夢溪筆談に出てゐる度支員外郎宋迪そうてきの事で、平沙へいさ落雁らくがん遠浦ゑんぽ歸帆きはん山中さんちゆう晴嵐せいらん江天こうてん暮雪ぼせつ洞庭どうてい秋月しうげつ瀟湘せうしやう夜雨やう
華厳滝 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
猿股を配ってしまった時、前田侯から大きな梅鉢うめばちの紋のある長持へ入れた寄付品がたくさん来た。落雁らくがんかと思ったら、シャツと腹巻なのだそうである。前田侯だけに、やることが大きいなあと思う。
水の三日 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「じゃ、またおいで——誰か友兄いに落雁らくがんをおやりよ」
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この都鳥みやこどり落雁らくがんも当分は食納たべおさめになるかも知れぬ。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
半七は風呂敷をあけて落雁らくがんおりを出した。
半七捕物帳:22 筆屋の娘 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「白状と來たね。石を抱かせる代りに、せめて落雁らくがんを抱かせて貰ひ度い、——出がらしの番茶も呑みやうがある」
銭形平次捕物控:050 碁敵 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
……待たっせえ、腰を円くそう坐られた体裁ていたらくも、森の中だけ狸に見える。何と、この囲炉裏いろりの灰に、手形を一つおしなさい、ちょぼりと落雁らくがんの形でござろう。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
煉瓦はちょうど落雁らくがんか何かで出来てでもいるようにぼろぼろに砕けてしまった。
鑢屑 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「白状と来たね。石を抱かせる代りに、せめて落雁らくがんを抱かせて貰いたい、——出がらしの番茶も呑みようがある」
銭形平次捕物控:050 碁敵 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
山懐やまふところに抱かれたおさなひめが、悪道士、邪仙人の魔法で呪はれでもしたやうで、血の牛肉どころか、吉野、竜田の、彩色の菓子、墨絵の落雁らくがんでもついばみさうに、しをらしく、いた/\しい。
玉川の草 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
また少々慾張よくばって、米俵だの、丁字ちょうじだの、そうした形の落雁らくがんを出す。一枚ひとつずつ、女の名が書いてある。場所として最も近い東のくるわのおもだった芸妓げいしゃ連が引札ひきふだがわりに寄進につくのだそうで。
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
本文ほんもんつていはく、蓬髮ほうはつ歴齒れきし睇鼻ていび深目しんもく、おたがひ熟字じゆくじでだけお知己ちかづきの、沈魚ちんぎよ落雁らくがん閉月へいげつ羞花しうくわうらつて、これぢや縮毛ちゞれつけ亂杭齒らんぐひばはなひしやげの、どんぐりで、面疱にきび一面いちめん、いや、いろくろこと
鑑定 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
などと落雁らくがんかじつてる。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)