華表とりい)” の例文
火はもうその時華表とりいに燃え移っていた。雉は半狂乱になっていたが、大きな胴体をしている来宮様を抱いて往くことができなかった。
火傷した神様 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
僕の先祖もこの明神に華表とりい寄進きしんしたということが家の記録に残っているから、江戸時代までも相当に尊崇されていたらしい。
こま犬 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
三囲みめぐり祠あり。中流より望みてその華表とりいの上半のみ見ゆるに、初めてこれを見る人もすいしてその三囲祠たるを知るべし。
水の東京 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
其の時、全然同じ一手段で夫れも立派な旗本が一人、芝の御霊屋おたまや華表とりい側で切り仆されたではありませんか。
赤格子九郎右衛門 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
類は友だっていいますがね、此奴こいつの方が華表とりいかずが多いだけに、火の玉の奴ア脊負しょいなげを食って、消壺へジュウー……へへへ、いいざまじゃありませんか、お互です。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
待乳山の下、今戸橋をわたって行くこと約半町、左っ側が八幡さまで大きな石の華表とりいが立っている。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
面白いことは横町の入口の両脇の角に「ユヤ」「床ヤ」と書いてある。それから不折邸の横に「上根岸四十番」と記し、その右に大きな華表とりいを画いて「三島神社」としてある。
子規の追憶 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
かの女を得なければいっそ南洋の植民地に漂泊しようというほどの熱烈な心をいだいて、華表とりい、長い石階いしだん、社殿、俳句の懸行燈かけあんどん、この常夜燈の三字にはよく見入って物を思ったものだ。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
わたくしはこの湫路しゅうろかたわらに芭蕉庵のあとは神社となって保存せられ、柾木稲荷のほこらはその筋向いに新しい石の華表とりいをそびやかしているのを見て、東京の生活はいかにいそがしくなっても
深川の散歩 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
百二十間の廻廊があって、百二十個の灯籠とうろうをつける。百二十間の廻廊に春のうしおが寄せて、百二十個の灯籠が春風しゅんぷうにまたたく、おぼろの中、海の中には大きな華表とりいが浮かばれぬ巨人の化物ばけもののごとくに立つ。
一夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
路の左側に石の華表とりいのある社は、河津八幡宮かわづはちまんぐうで、元の祭神は天児屋根命あまこやねのみことであったが、後に河津三郎祐泰さぶろうすけやす及びその子の祐成すけなり時致ときむねの三人を合祀ごうししたものであった。
火傷した神様 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
明応めいおう年間に木曽義元、小笠原氏と戦って、戦い勝利を得たるをもって、華表とりいを建てて鳥居峠と呼ぶ。
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
三囲みめぐり華表とりいを圧して巍然ぎぜんそびえたコンクリートの建物である、——六月の曇った空のいろを浮べた隅田川のものういながれが、一層その眺めを荒廃したものにみせていた……
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
明神みょうじん華表とりいから右にはいって、溝板どぶいたみ鳴らす細い小路を通って、駄菓子屋のかどを左に、それから少し行くと、向こうに大きな二階造りの建物と鞦韆ぶらんこや木馬のある運動場が見えた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
華表とりいの形や社殿しゃでんの様式も寺の堂宇どうう鐘楼しょうろうを見る時のような絵画的感興をもよおさない。いずこの神社を見ても鳥居を前にした社殿の階前にはきまって石の狛犬こまいぬが二つ向合いに置かれている。
仮寐の夢 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
あの風船玉売の老婆が、二三人集まって来ている小さな女の子に、商売物の風船玉を見せびらかしている他には何人だれもいなかった。広巳は安心して華表とりいくぐって往った。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
待乳山の裾をまわり、今戸橋をわたって、毎日その八幡さまの華表とりいをうち仰いだのである。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
鎮守ちんじゅの八幡宮の茅葺かやぶきの古い社殿は街道から見えるところにあった。華表とりいのかたわらには社殿修繕の寄付金の姓名とたかとが古く新しく並べて書いてある。周囲しゅういけやきの大木にはもう新芽がきざし始めた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
さて来宮様は、土地の人間どもの寒そうな顔をして、あくせくしているのを憐みながらじぶん住居すまいの近くへ帰って来た。其処そこは森の中で、入口には古ぼけた木の華表とりいがあった。
火傷した神様 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
長者の一行はようやく伊勢に着いて、外宮げぐう参詣さんけいしました。白木しらき宮柱みやはしら萱葺かやぶきの屋根をした素朴なやしろでありました。一の華表とりいくぐったところで、驕慢きょうまんな長者は大きな声をだしました。
宇賀長者物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
広巳はそうしてお辞儀をするなり、体をかえして正面の華表とりいの方へ歩いた。そこにはあちこちに喧嘩と知って集まって来ている人の顔があった。広巳はきまりが悪いので急ぎ足になって外へ出た。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
右側に嫩葉わかばをつけたけやきの大木が一団ひとかたまりとなっているところがあった。そこは八幡宮の境内であった。広巳はそこへ入った。華表とりいのしたに風船玉売の老婆がいた。広巳は見むきもしないで華表をくぐった。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)