草鞋わらんじ)” の例文
おもて長く髪の白きが、草色の針目衣はりめぎぬに、朽葉色くちばいろ裁着たッつけ穿いて、草鞋わらんじ爪反つまぞりや、巌端いわばなにちょこなんと平胡坐ひらあぐらかいてぞいたりける。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
生れしままなれば素跣足すはだししりきり半纏ばんてん田圃たんぼへ弁当の持はこびなど、松のひでを燈火ともしびにかへて草鞋わらんじうちながら馬士歌まごうたでもうたふべかりし身を
ゆく雲 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
この女郎の日和はお内儀で、勝手と蔵を一度往来して今あ母屋にいなさることは、これ、跡の向きを見りゃあ白痴こけにもわからあ。もう一つの草鞋わらんじものは——。
そのほかには馬の草鞋わらんじはおろか、犬の足跡さえない。すがれたよしと真菰の池の岸まで美しいほどの白一色。
平賀源内捕物帳:萩寺の女 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
二人の男は紺の脚半きゃはん切緒きりお草鞋わらんじという厳重な足ごしらえで、白襟しろえり花色地の法被はッぴを着ていた,向う向きの男は後からでよく分らなかッたが、打割ぶっさき羽織を着ていて
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
平治ノ乱のむかしは、ここも武者草鞋わらんじ馬蹄ばていにじゅうりんされたこともあるが、今日こんな無法な侵入は、衛府えふとしてゆるし難い。彼らの極力な阻止は当然なのだ。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
水行くほかに尺寸せきすんの余地だに見出みいだしがたき岸辺を、石に飛び、岩にうて、穿草鞋わらんじり込むまで腰を前に折る。だらりと下げた両の手はかれてそそぐ渦の中に指先をひたすばかりである。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
旗も甲冑かっちゅうも、槍の柄や草鞋わらんじ脛当すねあてなどはもちろん、水の中を行くように、しとどの露に濡れていた。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と手を袴越はかまごしに白くかける、とぐいと引寄ひきよせて、横抱きに抱くと、獅子頭ししがしらはばくりと仰向あおむけに地を払って、草鞋わらんじは高くった。とりはねかざりには、椰子やしの葉を吹く風が渡る。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
七つのとしより實家じつかひんすくはれて、うまれしまゝなれば素跣足すはだししりきり半纒ばんてん田圃たんぼ辨當べんたうもちはこびなど、まつのひでを燈火ともしびにかへて草鞋わらんじうちながら馬士歌まごうたでもうたふべかりし
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
時綱は、受け太刀ぎみ、草鞋わらんじのかかと退がりに、だだだと、庭添いの大廊下まで踏み退がる。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
目まぐるしきばかり、靴、草鞋わらんじの、かばかかと灰汁あくの裏、爪尖つまさきを上に動かすさへ見えて、異類異形いぎょういなごども、葉末はずえを飛ぶかとあやまたるゝが、一個ひとつも姿は見えなかつたが、やがて
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
樹下石上じゅげせきじょうはおろかなこと、野獣や毒蛇の中でも平然と眠れるぐらいな修行がなくて、山伏といわれましょうか、峰入りは何のためになさるか、兜巾ときん戒刀かいとう、八ツ目の草鞋わらんじ
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)