胴乱どうらん)” の例文
旧字:胴亂
それからまた胴乱どうらんと云ってきりの木をり抜いて印籠いんろう形にした煙草入れを竹の煙管筒にぶら下げたのを腰に差すことが学生間に流行はやっていて
喫煙四十年 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
おしゃれも仲々なかなかむずかしく、やけくそになって、ズボンの寝押しも怠り、靴も磨かず、胴乱どうらんをだらんとさげて、わざと猫背になって歩きました。
おしゃれ童子 (新字新仮名) / 太宰治(著)
背戸せどから廻って来たらしい、草鞋を穿いたなりで、胴乱どうらん根付ねつけ紐長ひもながにぶらりとげ、銜煙管くわえぎせるをしながら並んで立停たちどまった。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
書見台の上には『雨月物語うげつものがたり』。乱れ籠には、小間物の入った胴乱どうらんから鼻紙にいたるまで、なにからなにまで揃っている。
顎十郎捕物帳:16 菊香水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
目ざまし草の胴乱どうらんをかけた煙草屋たばこやていの男、しらみ絞りで顔をくるんだ男、或いは物売り或いは旅人、そうした者に、四、五町ごとに出逢います。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今の角館かくのだての仕事は、皮ににかわを塗り、これをこてで貼る手法である。そうしてこれが胴乱どうらんの如く木型を用いる場合と、箱類の如く木地を用いる場合と二種に分れる。
樺細工の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
それは革で作ったのを胴乱どうらんなどというのと同じ心持から、元はだらりと垂れるからの名だったろうと思う。
見れば半分裸のこの島の土人が四五人と、何か長い竿さおの先に丸い網をつけて、胴乱どうらんをさげた洋服姿の人が二人立って、木の上を見上げてはゆびさして話しておりました。
椰子蟹 (新字新仮名) / 宮原晃一郎(著)
高麗青皮の胴乱どうらん、金具は趙雲の円形まるがた、後藤宗乘の作、確かにも/\ほかに二つとない品でござります、口惜くやしい事をしましたな、それと知ったら早くおかみへ訴えて、かたきを取ってやるのに
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
背戸せどからまはつてたらしい、草鞋わらじ穿いたなりで、胴乱どうらん根付ねつけ紐長ひもながにぶらりとげ、啣煙管くはへぎせるをしながらならんで立停たちとまつた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
最も沢山作るのは胴乱どうらんで、煙草入であります。その他茶筒、茶入などは型を用いて作られ、硯箱すずりばこ、角盆などは板を素地とします。大きなものでは机や棚の類に及びます。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
カメラ納めた黒鞁くろかわ胴乱どうらん、もじもじ恥じらいつつも、ぼくに持たせて、とたのんで肩にかつがせてもらって、青い浴衣に赤い絞り染めの兵古帯へこおびすがたのあなたのお供、その日
二十世紀旗手 (新字新仮名) / 太宰治(著)
あれからすぐ夫婦ふたりして大坂を立ち、道中の路銀とてないので飴売あめうりの胴乱どうらんをかけて、子の乳となる妻のかてを、一銭二銭と働きながら、きょうやっと、小倉まで辿たどり着いたところだった。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
士「提物さげものが欲しいと思うが胴乱どうらんの様な物はないか」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
小児衆こどもしゅう小児衆、わしとこへござれ、と言う。はや白媼しろうばうちかっしゃい、かりがなくば、此処ここへ馬を繋ぐではないと、馬士まごは腰の胴乱どうらん煙管きせるをぐっと突込つッこんだ。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
胴乱どうらんだとか煙管筒きせるづつだとか、色々の種類を並べますが、中で注意すべきは紙縒細工かみよりざいくで、黒塗のも朱塗のも見かけます。大体紙縒細工は朝鮮が優れた仕事を見せますが、我国では江戸で発達しました。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
渋色の巻頭巾まきずきんに、箱形の胴乱どうらんを肩へ掛けた男が
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だがこの樺細工が真に発達したのは印籠いんろう胴乱どうらんとを作るようになって以後である。そうしてこれらの品こそは、角館の技として名を成すに至り、樺細工といえば角館を想い起すまでに至ったのである。
樺細工の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)