罵声ばせい)” の例文
罵声ばせいが子路に向って飛び、無数の石や棒が子路の身体からだに当った。敵のほこ尖端さきほおかすめた。えい(冠のひも)がれて、冠が落ちかかる。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
という罵声ばせいを浴びたくない。そして必然、血けむりの中へ、常の人間性はかなぐり捨てられ、ただ自国と武門の名あるのみになる。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
嘲笑ちょうしょう罵声ばせいを聞くたびに千三は頭に血が逆上ぎゃくじょうして目がくらみそうになってきた。かれが血眼ちまなこになればなるほど、安場のノックが猛烈になる。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
酔痴よいしれている男たちの罵声ばせいにまじって、女の啖呵たんかが鋭く裂かれた。市日の騒々しさは、きまって女の啖呵に終るのだった。
蕎麦の花の頃 (新字新仮名) / 李孝石(著)
沼南の傍若無人の高笑いや夫人のヒッヒッとくすぐられるような笑いが余り耳触みみざわりになるので、「百姓、静かにしろ」と罵声ばせいを浴びせ掛けられた。
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
「何だ、ボケナス、どうしてはめないんだ! ばか! よせッ!」チーフメーツは頭から、ストキへ罵声ばせいを吐きかけた。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
おれの村の何々太夫はもっとうまいぞ、好い加減に引っ込んでくれ」と、一方の桟敷から罵声ばせいを飛ばす。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そんな罵声ばせいやら、冷かしやらが、方々から起った。しかし、そこいらまではまだいい方であった。
次郎物語:04 第四部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
そして、「それでも」それがハムレットだと認め得ざるを得なかった時に、彼は罵声ばせいを口走った。
酔った士はそれを義士の首領の反間苦肉の策とは知りながらも、あまりその堕落振りが熱演されるので、我慢が仕切れなくなり、舞台に向って頻りに罵声ばせいを浴びせかけ始めた。
宝永噴火 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
けたたましく怒号しながら、不審なその鳥刺しを突然叱りつけた罵声ばせいが、そこの森の中の社務所とおぼしきあたりから挙りました。——ひょいと見ると、これがまた常人ではない。
「馬鹿! 危い! 気を付けろ!」と、汽車の機関士のはげしい罵声ばせいが、狼狽ろうばいした運転手の耳朶じだを打った。彼は周章あわてた。が、さすがに間髪を容れない瞬間に、ハンドルを反対に急転した。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
毎日石造りの陰鬱いんうつな大きな部屋に通って、慣れない交換台に向かって、加入者の罵声ばせいを浴び、仲間からは粗末な服装を嘲笑ちょうしょうされ、両親から譲られた唯一のものである美貌びぼう嫉視しっしされて
五階の窓:04 合作の四 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
この間も表門の方角からは、門を叩く音、ときの声、罵声ばせいや怒声が聞こえて来た。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
猛獣の咆哮ほうこうするが如き罵声ばせいが、部屋中に響き渡った。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
私語と怒号と罵声ばせいとを交換す。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
山麓に押し寄せ、敵陣めがけて罵声ばせいをさんざんに浴びせてみたが、黄忠の軍はひっそりと鳴りを静めて、出撃して来る気配もない。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
扉口とぐちの外からは、罵声ばせいと足踏みとが聞こえた。「燃やしちゃうぞ!」と聞こえた。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
突如、非人が意外な罵声ばせいをあげると、やにわに懐中からかくしもった種ガ島の短銃を取り出して、駕籠の中をめざしつつ右手めてしたかと見えましたが、あっと思う間に轟然と打ち放しました。
いろんな罵声ばせいが方々から起って来た。
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
彼の声に応じて、近隣の朋輩だの百姓だの、いずれも得物えものを持ったのが、たちまち、楊志の前後をおっとり囲んで、口ぎたない罵声ばせいを浴びせかけた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
波のごとき群集はのべつ揺れ騒ぎながら一ト勝負ごとにさかんな喝采かっさい罵声ばせいを舞台の力士へ送っていた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
急に駈けくだろうとすると、諸所のあなや岩の陰や、裏山のほうから、いちどに地殻も割れたかと思うような喊声かんせい、爆声、罵声ばせい、激声——さながら声の山海嘯やまつなみである。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一人の荘丁いえのこの手から、それを受けとった兄弟の者は、大庭の西にある槐の大木の下へつかつか寄って、やがて四、五とううなりと罵声ばせいを、武行者の上にあびせかけていた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)