より)” の例文
けて働く面々も、すぐり抜きたる連中れんじゅうが腕によりたすきを懸けて、車輪になりて立廻るは、ここ二番目の世話舞台、三階総出そうで大出来なり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「なあに、これだって、人が見れば、山出しの下男だろうと思うから心配はない。それよりも、うでによりをかけて、沖へ漕いでおくれ」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その蔓をよりをもどすやうにくるくる廻しながら松の幹から引き分けると、松は其時ほつと深い吐息をしてみせたやうに彼には感ぜられた。
あの酒を断つたらば、とはく住職の言ふことで、禁酒の証文を入れる迄に敬之進が後悔する時はあつても、また/\よりが元へ戻つて了ふ。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
三本よりの革鞭を振りあげて、あの横梁よこぎよりも高く猶奴ジュウが跳ねあがつたくれえ、こつぴどく野郎を擲りつけて正気に戻しただ。
けれども今一歩進んでその伊奈子が腕によりをかけた計画を、その終極点のギリギリのところで引っくり返したら伊奈子はどんな顔をするだろう。
鉄鎚 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「二本残った徳利を見ると、観世縒で縛ってあるが、一本はそのよりがひどく無器用だ。主人の万兵衛が自分で縒ったのは、見事な観世縒でしたよ」
こうなればいよいよ、お由とよりを戻しておかなければならない、そう思ったとき、おりうから「知らせ」があった。
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
五八「旦那さん、こういう奴は矢張やっぱり話のよりを戻して、縄ア掛けて、名主様へ引いて往って、くれえ所へ押入おっぺいる方がよかんべい、鳥渡ちょっと名主どんの所へ往ってくべいか」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
引き裂くと細くよりによった。うなずいて受け取った組紐のお仙、小蛇の首根っ子へ結び付けた。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
金紗きんしゃ元結もっといぐらいな長さの、金元結の柔らかい、よりのよい細いようなのを、二、三十本揃えたもの。芝居の傾城けいせいかつらにかけてあるのと同じ)だって、プツンとって、一ぺんかけただけだった。
体温表のうへでは、脈搏プルスと熱の線が、よりの戻つた、赤青なひ交ぜの縄のかたちで、即いたり離れたりしながら、絡みあつてはてしがない。その交叉点で、眼に観えぬ生命の火花が、ぱちりと、散る。
独楽 (新字旧仮名) / 高祖保(著)
意味もなくよりを掛けて紡錘つむに巻くに過ぎない。
「あなたが、縁談のよりをもどして——そして、虫のいいお願いですけれど、最初の約束のように、父の苦境を救って下さると仰っしゃれば」
旗岡巡査 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「二本殘つた徳利を見ると、觀世縒で縛つてあるが、一本はそのよりがひどく無器用だ。主人の萬兵衞が自分で縒つたのは、見事な觀世縒でしたよ」
この人間を手に入れて置けば帳面のボロを睨まれる気づかいなしという考えで、腕によりをかけて自分の方へ丸め込み、娘のお熊を邪魔にしたものと思われまする。
して見ると蝶さんが惚れたのも男振おとこぶりばかりじゃあないと見える、よりが戻りそうでもありませんかい。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
縁あって今じゃア女房にしている訳だが、これを表向にするならおしなせえ、伊勢崎の銭屋へ係って調べのよりを戻せば、お気の毒だがお前達の腰に縄が付くべいという考えだ
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
武蔵は、懐紙を取り出して、紙縒こよりを作り始めた。幾十本か知れぬほどっている。そしてまた、二本よりい合せて、長さを測り、たすきにかけた。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それから、あの觀世縒くわんぜよりは女結びになつて居た筈さ。武家が命がけの惡戯をするのに、觀世よりを女結びにするなんて、そんな悠長なことをするものか」
腕によりを掛けて釜山一帯の当局連中を鞭撻にかかったものだが、その手初めとして取りあえず慶尚南道けいしょうなんどうの有志、役人、司法当局四十余名を釜山公会堂に召集して
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
角「けえられねえけりゃア何うする、おれが方から訴えて調べのよりを戻せば、五両の金も取れないばかりでなく、腰に縄が付くんでがんすが、五両の金もりたくもないから、いやならうしようか」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
こりゃ心の迷いだ。がしてはならぬ脱がしてはならぬと思ってるからだ。こればかりの事に神経を悩すとは、ええ、意気地の無い事だ。いかさまな、五十の坂へ踏懸けちゃあ、ちとよりが戻ろうかい。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「すぐよりが戻ろう。そして、初めから物をわきまえぬ無知の者より、もっと始末のわるい、人間のくずができる」
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どうせ江戸一番の性悪男だから、お嬢さんとよりを戻したか、でなきゃア新しい女でも拵えたんでしょう
ヘヘ。そこが商売で……ヘヘ。襟半の若亭主、半三郎の嫁にというお話で一杯頂戴して、腕により
「ああ、じゃあ、それからまたよりが戻った次第わけだな。」
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「わしの如き、一介の漂泊士ひょうはくしを、皆が頼りにしていては、末が心もとない。——いつまでも、今の信念と一致がよりの戻らぬように、これを、心のまととしたがよかろう」
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そうかも知れん。殊に今度の事件などは、相手が佐賀一の金満家と来とるから、姉歯も腕により
空を飛ぶパラソル (新字新仮名) / 夢野久作(著)
元の悪友仲間のよりを戻して、暫くは無事な月日が流れて行きました。
すっかりよりが戻って、本来の気のいい人間に返っていたため、旅の二十日余りは、とまれ無事でなごやかだったが、いよいよ目的地の江州もほど近い掲陽嶺けいようれいにいたって
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この頃長崎中の抜荷買なかまが不思議がっとる福昌号の奸闌繰からくりちうのはこの味噌桶に違いないわい。ヨオシ来た。そんなら一つ腕によりをかけて、唐人共の鼻を明かいてコマソかい。
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
よりを戻すつもりだったのかな」
年増としまの恋の、熱と手練をくだいて、連れだした新九郎を、むざと、この男に引き裂かれて、もう自分では、鼻についている悪縁のよりへ、再びい込まれてしまった運命の不服と
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いちど死んだのは他人のことのように思惟しいのなかで区別できる。ぜられて、自分の心からも肉体のよりからも除けないのが、あの夜の道誉という者と、わが子と、それから、高氏とであった。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いや遅い。夜明けを待つまでもなく、すぐその運びにかかれ、幸い彦右衛門はきょう恵瓊えけいに会っておる。そのはなしのよりを戻して、もういちど、恵瓊がこちらの陣地へ出向いて来るように取計らえ」
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
武蔵は入念に、わらじの緒のよりを調べて、革足袋かわたびのうえに穿いた。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
職人たちは、べっと、つばをして、かんなに腕のよりをかけ初めた。
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)