緊張きんちょう)” の例文
わたしは、まるでゆめの中にでもいるように身を運びながら、何やら馬鹿々々ばかばかしいほど緊張きんちょうした幸福感を、骨のずいまで感じるのだった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
おそらくかれには確信という意識いしきはないにちがいない。確信も意識もないにしても、かれの実行動じつこうどう緊張きんちょうした精神をもって毅然直行きぜんちょっこうしている。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
「殺されてもかまわん」と生蕃せいばんは決心した。かれの赤銅色の顔の皮膚ひふ緊張きんちょうしてその厚いくちびるはしゅのごとく赤くなった。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
とりわけ次郎にとっては、それがかれの最も緊張きんちょうしていた瞬間しゅんかんのできごとであったために、そのおかしみが倍加されていた。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
あれッと、僕が緊張きんちょうするおりふし、水槽の横手の方から、ぎりぎりと硝子ガラスの板が出て来て、僕の頭の上を通りすぎていった。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
私はいつも講演のあとで覚える、もっと話し続けたいような、また一役済ましてほっとしたような——緊張きんちょうけ切らぬ気持で人々に混って行った。
みちのく (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
足軽たちに話しかけても、だれもウンとも返辞へんじをするものがなかった。かれらの眼色めいろはまだ夜の明けぬまえの異常いじょう緊張きんちょうをもちつづけているらしい。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いや、その時の彼女のそぶりに少しでも変化があったとすれば、それは浅黒い顔のどこかにほとんど目にも止らぬくらい、緊張きんちょうした色が動いただけだった。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
はっと緊張きんちょうし、「よう来てくれはりました」初対面の挨拶代りにそう言った。連れて来た女の子は柳吉の娘だった。ことし四月から女学校に上っていて、セーラー服を着ていた。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
そしていっぱいに気兼きがねやはじ緊張きんちょうした老人ろうじんかなしくこくりといきむ音がまたした。
泉ある家 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
それを気が付かずにいると必ず機嫌きげんが悪いので佐助は絶えず春琴の顔つきや動作を見落さぬように緊張きんちょうしていなければならずあたかも注意深さの程度を試されているように感じた。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
二学期の試験が近くなったので、花岡伯爵家の学習室は緊張きんちょうしている。しかし若様がたよりも家庭教師たち、家庭教師たちよりも安斉先生が一生懸命だ。若様がたが内証ないしょ話をすると
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
口は、異性間の通路としての現実性を具備していることと、運動について大なる可能性をもっていることとに基づいて、「いき」の表現たる弛緩しかん緊張きんちょうとを極めて明瞭な形で示し得るものである。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
この殺気さっきの場面に、恋の一こと——それは、降り積む雪に熱湯を注いだも同然で、一瞬、ほのぼのとした煙を上げて、この場の緊張きんちょうをやわらげ、冷気に一抹のあたたかみを与える効果はあったが
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ワーシカは、一種の緊張きんちょうから、胸がドキドキした。
国境 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
出産期が近づくにつれて私は次第に緊張きんちょうしてきた。
親馬鹿入堂記 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
どこも、非常時ひじょうじで、緊張きんちょうしているぞ。
赤土へくる子供たち (新字新仮名) / 小川未明(著)
先生のほうはべつに変わった顔もしていなかったが、夫人はさすがに緊張きんちょうしていた。先生はしばらくして小関氏に言った。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
そのあいだにも花前はすこしでも、わが行為こうい緊張きんちょうをゆるめない。やがて主人はおくきゃくがあるというので牛舎ぎゅうしゃをでた。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
そしてやがて営門のうちへ入って行った戸板の上の人と信長との今朝の会見を想像して、異様な緊張きんちょうを加えていた。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
フハンのほえ声はだんだん近くになる、ボートと平行してくだってくるのだ、一同は緊張きんちょうした。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
「でも、何が起っているんです」と、わたしは素早く相手を受けて、すっかり緊張きんちょうした。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
みんな緊張きんちょう絶頂ぜっちょうにあったのだ。誰もみな——治明博士だけは例外として——聖者レザールが厳粛げんしゅくな心霊実験を始めたのだと思っていたのだ。このとき、舞台裏で、例の奇妙な楽器が鳴りだした。
霊魂第十号の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
だから僕たちそのときは本当に緊張きんちょうするよ。
風野又三郎 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
次郎の気持ちは、しかし、はじめからおわりまで、緊張きんちょうそのものだった。かれの眼はたえず田沼先生のほうに注がれ、その一挙一動をも見のがさなかった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
と思うと、すでに二ばん試合じあい合図あいずが、いきもつかずとうとうと鳴りわたって、清新せいしん緊張きんちょうと、まえにもまさる厳粛げんしゅくな空気を、そこにシーンとすみかえらせてきた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
したみの板や柱にさまざまな落書きがしてあるのを一々見て行く内に、自分の感覚は非常に緊張きんちょうして細いのも墨の色のうすいのも一つも見のがすまいと、鋭敏えいびんに細心に見あるいた。
落穂 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
富士男は婦人に近づいて口をひらき、数滴すうてきのブランデーをそそいだ。一同は緊張きんちょうしてじっとみつめた。ムクムクとからだが動いた、と目をひらいてぼうぜんと四人の顔を見まわした。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
博士が、見えない目を大きくひらいて、緊張きんちょうする。
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
したがってここの空気は、しずたけやな合戦かっせん緊張きんちょうぶりとすこしもかわっていないのである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
富士男の消息しょうそくを、おそしと待ちかねていた一同は、極度きょくど緊張きんちょうした。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
その家臣からの報告によると、安土の今はそれどころでない緊張きんちょうにつつまれていて、小箱は信盛の手からお城へ達しられたが、果たして信長は、ろくにそれを見もしなかったらしいとの復命であった。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)