精霊しょうりょう)” の例文
旧字:精靈
秋の野になくてかなわぬすすきと女郎花おみなえしは、うらぼんのお精霊しょうりょうに捧げられるために生れて来たように、涙もろくひょろりと立っている。
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
それらの無数な精霊しょうりょうに内心で直面するとき、正成はいつもそそけ立ッたおももちになる。ひとりの犠牲もにしてはと詫びるのらしい。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
実をいうと名誉の最期をとげたあのかわいくて小さかった善光寺たつ新盆にいぼんが迫ってきたので、お手製の精霊しょうりょうだなをこしらえようというのでした。
右門捕物帖:23 幽霊水 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
「ええ、三五郎ですよ。お迎い火を焚いているところへ、飛んだお精霊しょうりょうさまが来ましたよ」と、彼は笑いながら会釈えしゃくした。
半七捕物帳:59 蟹のお角 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
盆も七夕たなばたもその通りではあるが、わずかに月送りの折合いによって、なれぬ闇夜に精霊しょうりょうを迎えようとしているのである。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
夫人 (獅子頭とともにハタと崩折くずおる)獅子が両眼を傷つけられました。この精霊しょうりょうで活きましたものは、一人も見えなくなりました。図書様、……どこに。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今年の秋は久し振で、亡き母の精霊しょうりょうを、東京の苧殻おがらで迎える事と、長袖の右左に開くなかから、白い手を尋常に重ねている。物の憐れは小さき人の肩にあつまる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
また、精霊しょうりょう祭りに用いたるみそはぎをたくわえおきて、それにてなでたるもよしといえり。
妖怪学 (新字新仮名) / 井上円了(著)
伏して念う、某、殺青さつせいを骨となし、染素せんそたいと成し墳壟ふんろうに埋蔵せらる、たれようを作って用うる。面目機発、人に比するにたいを具えてなり。既に名字めいじの称ありて、精霊しょうりょうの異にとぼしかるべけんや。
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
反対の側のやや広い地面には姿もない木がばらばらと立って、そのなかに赤い実のなる小さな木がまじっている。やっぱり無数の蜘蛛が巣をかける。精霊しょうりょうとんぼのはねが軒端をつたってひかひかと光る。
妹の死 (新字新仮名) / 中勘助(著)
といったような報告で、その長文の文字のなかに、宇治川で死んだという頼政の顔や、幾多の先駆した精霊しょうりょうが、目に見えるような気がした。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
空を往来する精霊しょうりょうのためには、まことに便利なる澪標みおつくしであるが、生きた旅人にとってはこれほどもの寂しいものはない。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
神月が人魂だといったのを聞いた時、あいつ愛嬌あいきょうのない、鼻のたかい、目のきつい、源氏物語の精霊しょうりょうのような、玉司たまつかさ子爵夫人りゅう子、語を換えて云えば神月の嚊々かかあだ。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「生臭食ったらたつが泣くよ。だいいち、さっきの精霊しょうりょうだながまだでき上がっていねえじゃねえか。早くこしらえておいてやらねえと、あしたの晩やって来ても、寝るところがねえぜ」
右門捕物帖:23 幽霊水 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
ひとえに、皇統の破滅のみならず、その下における、あわれ民ぐさ、千万の精霊しょうりょうも、みな戦土にあえかねばなりません
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
日中ひなかのこのこ出られますか。何、志はそれで済むからこの石の上へ置いたなり帰ろうと、降参に及ぶとね、犬猫が踏んでも、きれいなお精霊しょうりょうが身震いをするだろう。
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これは単に人間の訪問客の案内だけでなく、正月もちの夕にまず訪い来るもの、すなわち精霊しょうりょうと家々の神の道しるべであったこと、あたかも盆の高燈籠たかとうろうと目的が一つであると思う。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ぬぐいきれない無数の精霊しょうりょう血脂あぶらに——失礼ながら、益なき殺生をただ誇る素牢人すろうにんが——といやな気持に打たれたのです
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
志す精霊しょうりょうの読経が始りそうで何とももって陰気な処へ、じとじと汗になるからたまりません……そこで、掃除の済まない座敷を、のそのそして、——右の廻縁へ立った始末で。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
七一 精霊しょうりょう送り
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
憎や、小賢こざかしの敵めら、いで信長がふみつぶして、先駆けの精霊しょうりょうどもに手向たむけせん。——つづけッ、信長に!
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
新盆にいぼんに、切籠きりこげて、父親おやじと連立って墓参はかまいりに来たが、その白張しらはりの切籠は、ここへ来て、仁右衛門爺様じいさまに、アノ威張いばった髯題目ひげだいもく、それから、志す仏の戒名かいみょう進上しんじょうから、供養のぬし、先祖代々の精霊しょうりょう
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「時にとって、五百の精霊しょうりょうが一体となって立てこもれば、これでも金城鉄壁といえないことはない」
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)