)” の例文
近い岸より、遠い山脈が襞目ひだめ碧落へきらくにくつきり刻み出してゐた。ところどころで落鮎おちあゆふさ魚梁やなされる水音が白く聞える。
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
母子おやこはとうに部屋のを垂れて、その声にも姿をみせず、また返辞の要もないので、去り行く足音だけを黙って聞いていたのであった。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
脊山の家にはがおろされてあったが、腰元のひとりが小石に封じ文をむすび付けて打ち込んだ水の音におどろかされて、簾がしずかに巻きあげられると
島原の夢 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
中央の部分には畳がなく、漆をはいた廊下になっていて、そこにオランダ人らがすわれと命ぜられた。将軍と貴婦人たちとは彼らの右手にあるの後ろにいた。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
だが、祖父おじいさん祖母おばあさんを信頼している。早く出してやれといったが——祖父は頭の上の、階下したから荷物をあげおろしするためにつくってあるの子に、階下の様子をのぞいている祖母の眼を感じた。
糸毛車のが閉じられるやいな、わだちはもとへめぐっていた。中宮の慟哭どうこくそのままに、車の姿も、中門の外へ、揺れ揺れ消えた。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
の後方にしながら、侍臣のものに命じて彼らの礼服なるカッパを取り去らせ、起立して全身を見うるようにさせろとあったから、彼らは言われるままにした。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「対岸から、ここの内が見えるはずもないが、なんとなく、気が散りますな。そこの縁のを、みな垂れ籠めてくださらぬか」
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
深いのかげには殿中の人たちが集まって来ていた。将軍と二人ふたりの貴婦人も一行のものの右手にあたる簾の後ろにいた。その時、彼らの正面に来てすわったのも牧野備後だった。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
すると、ろうのほのぐらいの外に、人影がさした。ひとりは直義で「——兄者あにじゃ」と呼びかけるなり内へ入って、彼一人だけ遠くに坐った。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、清忠が、玉座へむかって、しゃくを正しかけたときである。後醍醐のおひざも、すっと同時にお立ちになった様子が、の下からうかがわれた。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、大声で求め、そのお声で、すぐ妃の君が玻璃がらすわんを盆にささげて、細殿のごしに見えたお姿と共に、外いちめんの銀世界にも初めて気づき
疾風はやてか、大魔軍の征矢そやかのように、ばらばらと、輦の扇びさしや左右のや、性善坊の肩や、また、玉日と綽空の膝の近くへも飛んできて、はじかえった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
半身はにかくれ、ただ、半身の横顔が、うッすらと、外の夜空に透いて見える。その線が、登子に似ていた。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
公人くにんとは、僧ではない。雑掌ざっしょうの上役とでもいえようか。荘園の貢税みつぎをつかさどる山門の武士である。その掃部かもんは、倉皇として来て、みる灯の遠くに、平伏した。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ふびん? わしのきずなだ、そちにいわれるまではない。何はあれ、そこのをさかいに、廊より内へ二人を入れるな。しいて対面を求めるなら、高氏は座を立つぞ」
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さげすみと、身ぶるいを抱いて、小宰相はこもった。そして夕のくるのを待ちわびた。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すると、廊ノ間の越しに、ちらと、美しい人影が立ってここの書院を覗いたように思われた。それは高氏の若い血にすぐ敏感な響きをおこした。えならぬ香気すら感じられる。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は、へ向って、毎夜のとおりな礼をした後、自分の寝所へ入って枕についた。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
答えにつまって、そして羞恥はじらってでもいるような気配がおぼろ勾欄こうらんのあたりでしていた。その間には、細殿のが垂れている。義貞はもどかしくなり、われから立って、簾を押しはらった。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
せきとして、これをいぶかるような気配もない。そのまにミシリミシリ堂の廊を一巡してゆくと、神器のある賢所かしこどころでもあろうか、みを垂れた内陣の一隅に夜すがらともっている一すいの灯が見えた。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おやかたさま、青蓮院しょうれんいんでございまする」と、箱のにささやいた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがて、みのうちで
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)