箪笥だんす)” の例文
「お勝手箪笥だんすから献上箱、それから今度は進物駕籠と、いやいろいろの名称をつけて、送る方でもよく送るが、取る方でもよく取るのう」
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「洋服箪笥だんすや何か、眼につく物は持って行って貰わんと工合悪いけど、大事な物は置いときなさい。アパートは何処にするのん」
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
箪笥だんすと化粧台と円卓子と本柵、ちょっと寝室と居間とを一緒にしたような便利な部屋で、角の方には瓦斯ガスストーブの設備さえ出来ている。
凍るアラベスク (新字新仮名) / 妹尾アキ夫(著)
何処どこからか運んで来たのであらう、粗末なベッドに、腰高な机と椅子が一つ。白いペンキ塗りの狭い洋服箪笥だんすが、暗い部屋の調和を破つてゐた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
立ち止ったところに大きな洋服箪笥だんすが立っている。新一は観音開きの扉を目で示して、再び「静かに」という合図をした。
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
記憶の百味箪笥だんすの、何處へしまひ忘れたか、八五郎は鼠の穴を仰向けにして、大空を嗅ぎ廻すやうな恰好をするのでした。
銭形平次捕物控:239 群盗 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
殆ど衣類は入っていない秋山の衣裳箪笥だんすの棚にしまってあったゆうべののこりの、塩漬胡瓜きゅうりやチーズ、赤いきれいなイクラなどで朝飯をはじめた。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
門野ははかまを脱いで、尻を端折はしょって、重ね箪笥だんすを車夫と一所に座敷へ抱え込みながら、先生どうです、この服装なりは、笑っちゃ不可いけませんよと云った。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
すすけた塗り箪笥だんす長火鉢ながひばち膳椀ぜんわんのようなものまで金に替えて、それをそっくり父親が縫立ての胴巻きにしまい込んだ。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
万太郎が、誓言をくり返していますと、老人はいくたびか彼の姿を拝して、やがて、次に聞こえたのは、ガチリと、刀箪笥だんすの錠前をあける音でした。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あんまりぽんぽん整理されて行くので、千恵も娘ごころにむしろ痛快なほどで、ある日お寝間の化粧箪笥だんすのなかに最後にのこつた宝石ばこを選りわけながら
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)
ところがそこで一悶着起きた。運び入れた洋服箪笥だんすや机のたぐいを、野呂がせっせと中央の板の間にえ始めたものですから、僕が一文句をつけたのです。
ボロ家の春秋 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
素敵すてきよ。まるでプリンスだわ」と、姉のエルネスチイヌはいう——「それで、帽子さえかぶればいいんだわ。開き箪笥だんすの中にあるから取ってらっしゃい」
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
「ちぇ、放っておいてくれたまえ!」と、もう洋服箪笥だんすのところまで押しもどされていたKは、叫んだ。「寝込みを襲っておいて、礼装して来いもあるもんか」
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
ながいあいだの習慣だから母親の椙女すぎじょは、彼がそう云おうと黙っていようと、茶箪笥だんすのほうへ振返って、「上の戸納とだなをあけてごらんなさい、鉢の中にあめがあった筈ですよ」
ひやめし物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
直治の洋服箪笥だんすや机や本箱、また、蔵書やノートブックなど一ぱいつまった木の箱五つ六つ、とにかく昔、西片町のお家の直治のお部屋にあったもの全部を、ここに持ち運び
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
箪笥だんすの後から物を引き出すのに矢を使用したところが、矢が折れた。これを見た竹中氏は、昔日本人は、故意に矢を極めて弱くつくり、敵が再びそれを使用することを防いだと話してくれた。
しかるにその後から蒔絵を施した、善美を尽くしたお勝手箪笥だんすが、これも四人の武士に担がれ、門から外へ出たのである。
十二神貝十郎手柄話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
主人廣田利右衞門の寢間の用箪笥だんすが開いて、中を掻き廻した上、時計が無くなつてゐるし、仕事場では弟子の爲三郎といふのが、匕首あひくちで正面から胸を
すぐそこにえられたあかの金具の光るかさ箪笥だんすの一番下の抽斗ひきだしを開けた。そうして底の方から問題の外套がいとうを取り出して来て、それを小林の前へ置いた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
失望させると可愛い芍薬の花が泣きます。洋服箪笥だんすの姿見もあなたの姿を映したいといっています。ではきっと!
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その大きい衣裳箪笥だんすの左側の小さい棚が、このホテル暮しの彼女たちの食器棚になっているのであった。
広場 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
果たして、将軍家は、かえでの御用箪笥だんすから、弦之丞の嘆願書をとりださせ、阿波の嫌疑や、甲賀家のことや、弦之丞の身がらについて、さまざまな下問かもんがあった。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
伊兵衛の部屋は、青岳父娘おやこの住居と同じ棟の、道場に近い六じょう二た間であった。片方が寝間で、居間のほうには切炉きりろがあり、机とか手文庫とか、用箪笥だんすなどが備えてある。
雪の上の霜 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
敷きつめた高価なペルシャジュウタン、まっ白に塗った天井、船内とは思われぬ凝ったシャンデリヤ、飾り箪笥だんす、織物に覆われた丸テーブル、ソファ、幾つかのアームチェア。
黒蜥蜴 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
上着を換えるため洋服箪笥だんすのところへ行き、面倒な人だとぶつぶつこぼしているグルゥバッハ夫人に対する返答として、朝食の道具をもう持っていってもらいたい、と頼んだだけだった。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
平常ふだん入用の藥は、百味箪笥だんすの方に入つてゐて、これは誰にでも出せるが、藥戸棚の方は私の部屋の手箱から鍵を持ち出さなきや開けるわけに行かない」
彼女はうしむきになって、かさ箪笥だんすの一番下の抽斗ひきだしから、ネルを重ねた銘仙めいせん褞袍どてらを出して夫の前へ置いた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そして洋服箪笥だんすの蔭いて、帯ほどいて、髪ばらばらにして、きれいにいて、はだかの上いそのシーツをちょうど観音さんのように頭からゆるやかにまといました。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
旧家の刀箪笥だんすや書画入れの長持ながもちには、よくこの樟板くすいたを底へいれておくものですが、今、老人が手に取ったそれには、黒光りの板の片面に、何やら細密な絵図がひいてある。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
肋骨あばらぼねが折れて、水を呑んで居なかつたので、人に殺されてから水へ投り込まれたと解り、いろ/\調べると、甚五兵衞の用箪笥だんす抽斗ひきだしから、書置きが出て來た。
代助はやがて食事を済まして、烟草をかし出した。今迄茶箪笥だんすかげに、ぽつねんとひざかゝへて柱にかゝつてゐた門野かどのは、もうい時分だと思つて、又主人に質問をけた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
玩具おもちゃの寝台や、洋服箪笥だんすや、椅子や、テーブルや、西洋人形など、こまこました物が並んでいるのが残らず見分けられ、二人の少女の甲高い声がはっきり聞き取られるのであるが
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
と、帳場箪笥だんすの隅から程なく立って来る者がある。武蔵は、後ろを閉めて
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その次にもう一つ大きいのを造ったら、今度は「洋服箪笥だんす」と冷かされた。
そして刀箪笥だんすや刀箱から、耕介が選び出した数本をそれへ並べて
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)