笑顔ゑがほ)” の例文
旧字:笑顏
燈火あかりに背いた其笑顔ゑがほが、何がなしに艶に見えた。涼しい夜風が遠慮なく髪をなぶる。庭には植込の繁みの中に螢が光つた。小供達はそのはうにゆく。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
その笑顔ゑがほを見た。かれは際限がないやうな気がして、つとめてそれを打消さうとしたが、しかも容易にその姿はかれから離れて行かうとはしなかつた。
赤い鳥居 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
千駄木せんだぎおくわたしいへから番町ばんちやうまでゞは、可也かなりとほいのであるが、てからもう彼此かれこれ時間じかんつから、今頃いまごろちゝはゝとにみぎひだりから笑顔ゑがほせられて
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
や、笑顔ゑがほおもふては、地韜ぢだんだんでこらへても小家こやへはられぬ。あめればみのて、つき頬被ほゝかぶり。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
女は黙つて、又もや余儀なさゝうに笑顔ゑがほをつくつた。わたしはどうかして、もすこし心やすくならうと思ひ
畦道 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「隱すツて譯じやないんですけれど………」と些と思はせぶりを行ツて、「ま、しませう。私にだつて、御信心ごしんじんがあるんですとさ。ね、解ツたでせう。」と邪氣つみの無い笑顔ゑがほを見せる。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
裂けもしぬべき無念の胸をやうやうしづめて、くるし笑顔ゑがほを作りてゐたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
まあそんな約束でもして喜ばして置いておくれ、こんな野郎が糸織ぞろへをかぶつた処がをかしくも無いけれどもとさびしさうな笑顔ゑがほをすれば、そんなら吉ちやんお前が出世の時は私にもしておくれか
わかれ道 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
老看守まともに笑顔ゑがほみせくるるうたがはれぬ日のわれはうれしも
遺愛集:02 遺愛集 (新字新仮名) / 島秋人(著)
といつて笑顔ゑがほをなすつたが、これはわたし悪戯いたづらをして、母様おつかさんのおつしやることかないとき、ちつともしからないで、こはかほしないで、莞爾につこりわらつておせの、それとかはらなかつた。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ばうさんは一かう心当こゝろあたりがないとふやうな面持おももちをしながら、それでも笑顔ゑがほをつくり
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
しかも口づから承知して置きながら十日とたたぬにもうろくはなさるまじ、あれあの懸けすずりの引出しにも、これは手つかずのぶんと一ト束、十か二十か悉皆みなとは言はず唯二枚にて伯父が喜び伯母が笑顔ゑがほ
大つごもり (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
とまた叩頭おじぎをした。が、ゑみわれるやうに、もいはれぬ、成仏じやうぶつしさうな笑顔ゑがほけて
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
女は余儀なさゝうに笑顔ゑがほを見せました。
畦道 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)