端麗たんれい)” の例文
佐伯氏は、あかねさんという、すごいような端麗たんれいな顔をした妹さんと二人で別棟べつむね離屋はなれを借り切って、二階と階下したに別れて住んでいる。
キャラコさん:03 蘆と木笛 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
この端麗たんれいな、しかも、もと安土城あづちじょうにもいたといういわくつきの美少女を、不問ふもんに捨て去るのは、何やら惜しい気がしてならない。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
神田かんだだ。」と重い口調で言った。ひどくしわがれた声である。顔は、老俳優のように端麗たんれいである。また、しばらくは無言だ。ひどく窮屈である。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
輝かしいほどの美貌であるが、ただ額が少し広すぎるのと、鼻があまりに端麗たんれいなので、人に高圧的な印象を与えた。
第二の接吻 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
この曲に示した曖昧あいまいにして大袈裟おおげさな身振りは、クーレンカンプの素直すなおにして端麗たんれいな趣に及ばないものを思わしめる。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
殊にオルガ姫の端麗たんれいさは、ちょっと人間界にも見あたらぬほどだ。私は有名なるミラノの美術館を一週間見て廻って、ようやくオルガ姫の原型げんけいを拾い出したのであった。
地球要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
小初がずっと端麗たんれいに見える。その威厳いげんがかえって貝原を真向きにさせた。貝原は悪びれず
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
土岐小次郎の端麗たんれいな姿が、その大楠の樹のすぐの手前まで、馳けつけて来た瞬間であった。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
走り行きたる三人みたりの軍夫は、二人左右より両手を取り、一人うしろよりせなして、端麗たんれい多く世に類なき一個清国の婦人の年少としわかなるを、荒けなく引立て来りて、海野のかたえ推据おしすへたる
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
独逸クルウのだれかの愛人リイベとみえる、一人のゲルマン娘は、いつも毅然きぜんとしていて、練習時間には、つつましく、ひとり日蔭椅子いすすわり、編物か、読書にふけっていて、その端麗たんれいな姿にも
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
玉藻は妖麗ようれいであった。衣笠は端麗たんれいであった。千枝太郎はこの相違を比較して考えた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
私は窓に腰かけたまま、じっと女の端麗たんれいな横顔に見入っていた。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
念入りな朝の端麗たんれいがあった。
この本所ほんじょの裏町では、彼女の高貴めいた身装みなりだの端麗たんれいな目鼻立ちが、掃溜はきだめの鶴と見えるらしく、妙な尊敬を持つのだった。
魚紋 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
荘田夫人の美しい端麗たんれい容貌ようぼうや、その溌剌はつらつとして華やかな動作や、そのすぐれた教養や趣味に、兄も自分も、若い心を、引き寄せられて行った頃の思い出が、後から/\頭の中に浮んで来た。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
すこぶる礼儀正しい。目当めあては節子だ。節子は未だ女学生であったが、なりも大きく、顔は兄に似ず端麗たんれいであった。節子は兄の部屋へ紅茶を持って行く。風間は真白い歯を出して笑って、コンチワ、と言う。
花火 (新字新仮名) / 太宰治(著)
顏形は端麗たんれいと言つてよく、道具の揃つて居ることは拔群ばつぐんですが、血色がひどく惡い上に、愛嬌あいけうや世辭を何處かへ振り落したやうな無表情で、斯う相對してゐても何となく、一種の壓迫を感ずるやうな
端麗たんれいな女が坐っていた。身に行衣を纏っていた。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
けれど、それで居て、肩の薄い肉づきだの、ととのった目鼻だちだの、天性の端麗たんれいが、どこやらに潜んでいた。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だが、今は家光将軍の寵童ちょうどうであり、小姓組では羽振はぶりがよいし、服装は綺羅きらで、容姿は端麗たんれいな彼だった。
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
濃い眉毛まゆげのうえに、ぼつんと、黒豆ぐらいな黒子ほくろがある。この容貌に、二位の冠を授けたら、どんなに、端麗たんれいであろうといつも人は見つつ想像することであった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
面ざしすらにわかに吉光の前に似かようてきたかに見えて端麗たんれいを加えたのも変り方の一つであったし、さらに、範綱さえ、介さえ、ときどき、驚かされることは、彼の眸であった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
風呂先で囲った茶釜ちゃがまの前に、端麗たんれいに坐っていた。茄子色なすいろ茶帛紗ちゃぶくさに名器をのせ、やがて楚々そそと歩んで、内匠頭の前へ茶わんを置いた。そして彼の視線と共に、廂越ひさしごしのあおい空に見入った。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
佐吉もめっきり成人して、いよいよ端麗たんれいな小姓振りであった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
容貌ようぼう端麗たんれいに似あわず、周瑜しゅうゆには底意地のわるい所がある。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)