すい)” の例文
旧字:
やがては、壁も天井も、そして一すい短檠たんけいの灯までが、水音を立てているのではないかと疑われるほど、武蔵は冷々ひえびえとした気につつまれた。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
浪の音が、上から落ちて来るようにさっと響くと、一すい燈火ともしびがゆらゆらと揺れます。お玉はぶるぶると身震いをしました。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
小堀鞆音ともね、川合玉堂、結城素明ゆふきそめい、鏑木清方、平福ひらふくすいなどいふ東京の画家は、近頃呉服屋が画家ゑかきに対して、随分得手勝手な真似をするので、懲らしめの為に
あるいはわが邦在野の政治家は将来を思うて一すいの寒燈、沈思黙坐するものもあらん。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
初は隣家の隔ての竹垣にさえぎられて庭をなかばより這初はいはじめ、中頃は縁側へのぼッて座舗ざしきへ這込み、稗蒔ひえまきの水に流れては金瀲灔きんれんえん簷馬ふうりん玻璃はりとおりてはぎょく玲瓏れいろう、座賞の人に影を添えて孤燈一すいの光を奪い
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
ぼとっ——と、時折、中庭の闇で青梅のの落ちる音がする。武蔵は、一すいに向ってこごみこんだまま顔も上げない。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
真っ暗な拝殿のうちに、一すい御明みあかしは消えなんとしながら消えもせず、颯々と風の中にゆらいでいた。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
高氏はふと、眼をひらいてみた。むずむずと、袂の内から取出したものを、枕元の一すいの灯にかざしながら、横になったままで、飽くなく見入っていたのであった。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、君臣は、なにか美しい光輪のにじでも見まもるように、しばしその夕は、一すいの灯に見恍みとれ合った。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
閣上かくじょう源氏げんじには、一すい燈火ともしび切燈台きりとうだいあぶらいつくして、ジジジと泣くように明滅めいめつしている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この比叡山にも大鉄槌だいてっついを下したため、それ以後の五山は、政治や特権から放逐され、今ではじゃくとして、元の法燈一すいの山にかえろうとしているが、今なお、法師のうちには
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただ一すいともと、それに照らさるる武蔵の青白く頬のげた影とがあるだけであった。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すい灯火ともしびのほか、そこには何もなくなった。清浄しょうじょうな灯かげだけが静かにゆらいでいた。——そうした気持で、彼は、二十年ぶりの、いや、生れて初めて会う骨肉を迎えたかった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
冬も、小堂の師弟は、この山中に一すいの灯を点じ雪のふる夜も画道に精進していた。
人間山水図巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
平常へいぜいの鍛錬を、ここぞと思う間際に当って、一すいの明りを仰ぐと、なにか、暗夜に光でも見つけたように、欣しげに心は揺れ、手はわれを忘れて、この鰐口わにぐちの鈴を振り鳴らそうとしている。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
せきとして、これをいぶかるような気配もない。そのまにミシリミシリ堂の廊を一巡してゆくと、神器のある賢所かしこどころでもあろうか、みを垂れた内陣の一隅に夜すがらともっている一すいの灯が見えた。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
玄徳はその夜、一すいの燈火を垂れ、筆をとって、細々こまごまと何か書いていた。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
陣中せきとして、ここの一すい燈火ともしびのほか揺らぐ人影もなかった。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
玄徳の生命は、暴風の中にゆられる一すい燈火ともしびにも似ていた。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
筒井城内の短檠たんけいすいもとにてしるす
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)