瓦屋根かわらやね)” の例文
いつも両側の汚れた瓦屋根かわらやね四方あたりの眺望をさえざられた地面の低い場末の横町よこちょうから、今突然、橋の上に出て見た四月の隅田川すみだがわは、一年に二
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
村といっても、十二—三軒の家だけで、その家はみんな、低い土壁つちかべ瓦屋根かわらやねをのせて、入口が一つついているきりでした。
金の目銀の目 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
直径二尺から三尺、高さ三十尺から四十尺の巨柱は、複雑な腕木うでぎの網状細工によって、斜めの瓦屋根かわらやねの重みにうなっている巨大なはりをささえていた。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
瓦屋根かわらやねの下の壁に切ってある横窓からはこどもの着ものなど、竹竿で干し出されているのをときどき見受ける。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
その畠は一方は町はずれの細い抜道に接し、他の一方は田舎風の赤い瓦屋根かわらやねの見える隣家の裏庭に続いていた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
僕は三泊の予定通り、五月十九日の午後五時頃、前と同じ沅江丸げんこうまるの甲板の欄干らんかんによりかかっていた。白壁や瓦屋根かわらやねを積み上げた長沙ちょうさは何か僕には無気味だった。
湖南の扇 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
雑木ある処だんだらにくまをなして、山の腰遠く瓦屋根かわらやねの上にて隠れ、二町ふたまち越えて、ながれの音もす。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
たてきってあったような、その新建しんだちの二階の板戸を開けると、直ぐ目の前にみえる山の傾斜面にひらいた畑には、麦が青々と伸びて、蔵の瓦屋根かわらやねのうえに、小禽ことりうれしげな声をたてていていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
かれの住んでいた家のあたり、——瓦屋根かわらやねの間に樹木の見える横町のことも思い出したのである。
本所両国 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
最初はただ、廂溝ひさしみぞなどをかすかに打つ音のみであったが、やがて、瓦屋根かわらやねに当ってまたばらばら。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ここに草葺くさぶきの屋根があると言って、それを仏国中部の田舎いなかあたりで見て来た妙に乾燥した空気や、牛羊の多い牧場や、緑葉の間から見える赤い瓦屋根かわらやねの農家なぞに思い比べて行った。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
川向かわむこうは日の光の強いために立続く人家の瓦屋根かわらやねをはじめ一帯の眺望がいかにも汚らしく見え、風に追いやられた雲の列がさかん煤煙ばいえん製造場せいぞうば烟筒けむだしよりもはるかに低く、動かずに層をなしてうかんでいる。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ようよう心たしかにその声したるかたにたどりて、また坂ひとつおりて一つのぼり、こだかき所に立ちておろせば、あまり雑作なしや、堂の瓦屋根かわらやね、杉の樹立こだちのなかより見えぬ。
竜潭譚 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
僕はその何分か前に甲板の欄干らんかんりかかったまま、だんだん左舷さげんへ迫って来る湖南の府城を眺めていた。高い曇天の山の前に白壁や瓦屋根かわらやねを積み上げた長沙は予想以上に見すぼらしかった。
湖南の扇 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「ご覧、目の下に遠く樹立こだちが見える、あの中の瓦屋根かわらやねが、私の居る旅籠はたごだよ。」
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
瓦屋根かわらやねの上の月の光は、くびの細い硝子ガラスの花立てにさした造花の百合ゆりを照らしている。壁に貼ったラファエルの小さなマドンナを照らしている。そうしてまたお君さんの上を向いた鼻を照らしている。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
一声ひとこえくりかへすと、ハヤきこえずなりしが、やうやう心たしかにその声したるかたにたどりて、また坂ひとつおりて一つのぼり、こだかき所に立ちておろせば、あまり雑作ぞうさなしや、堂の瓦屋根かわらやね
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
それから昨夜ゆうべの、その月の射す窓からそっと出て、瓦屋根かわらやねへ下りると、夕顔の葉のからんだ中へ、梯子はしごが隠して掛けてあった。つたわって庭へ出て、裏木戸の鍵をがらりと開けて出ると、有明月ありあけづきの山のすそ
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……食べても強請ねだる。ふくめつつ、あとねだりをするのを機掛きっかけに、一粒くわえて、おっかさんはへいの上——(椿つばき枝下えだしたここにおまんまが置いてある)——其処そこから、裏露地を切って、向うの瓦屋根かわらやねへフッと飛ぶ。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)