かがや)” の例文
佃と伸子は食堂へ行ったが、華やかに装って談笑する人々、かがやく食卓の光景は、今まるで彼女の心に迫る力を失ってしまった。佃は
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
耳を澄ますと、四山の樹々には、さまざまな小禽ことりむれ万華まんげの春に歌っている。空は深碧しんぺきぬぐわれて、虹色の陽がとろけそうにかがやいていた。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なごやかな夕餐ゆうさんが済んで、やがて二人は涼しい夜を迎えた。晴れわたった夜空には月もなく、ただ銀河系の群星が暗黒な空間にダイヤモンドの砂を撒いたようにキラキラとかがやいていた。
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
こういっておすみが顔をかがやかせると
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
背中きらきらかがやいて
『春と修羅』 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
小ざかしく虚無を真似て自分からその泉の小さいかがやきに目をそむけていようとも、やっぱりよく生きたい、という願望の実在は消されない。
両軍は祁山きざんの前に陣を張った。山野の春は浅く、陽は澄み、彼我ひが旌旗せいき鎧甲がいこうはけむりかがやいて、天下の壮観といえる対陣だった。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
波が体にあたってとびちるとき、体の下をすべっておされてゆくとき波は小さい笑いのようにかがやくし、独特のざわめきを立てるのですもの。
彼女の肉体は獣王の犠牲にえにひとたびは供されたが、今は彼女自身のものに立ち返っていた。天然の麗質れいしつは、死んでからよけいにたまのごとくかがやいていた。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
電車はタタ、カタタと揺れて、暖かい日光にかがやいている、東京と横浜とのあいだをつなぐ雑然とした風景のあいだを疾駆する。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
信長の声は、金碧きんぺき丹青たんせいかがやくうちにただ一つある墨絵の一室——狩野永徳かのうえいとくが画くところという遠寺晩鐘図えんじばんしょうずふすまをめぐらした部屋の上段から大きく聞えた。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ね、あすこにあんなかがやきがあるでしょう。そして、あの色は何といり組んだ光りをもって次第に高まって来るでしょう。
大湖たいこにのぞむ大広間をあけひろげ、千燭せんしょくかがやかして、小姓たちには金扇銀扇をもたせて舞いきそわせ
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
波打際までゆくと月のさしている一筋のところだけ海上がかがやいて、あとは微妙に暗く、しかもどこか明るく海面がもり上ったように見えるものですね。
そして眼をひらくと、四壁の金泥きんでいと絵画は赤々とかがやいていた。格天井ごうてんじょう牡丹ぼたんの図も炎であった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、十二月一杯曇天つづきで(十月下旬から)一月に入ると厳寒で却って白雪はキラキラかがやいた青空になるのよ。午後三時ごろにはもう電燈がついて。
人々は、厩舎うまやに曳きこまれた勝馬をいたわりにゆくのでもなく、敗者の騎手を慰めに行くのでもなかった。競馬場は飽くまでも、勝者の独壇場でありかがやく者のためにある広場だった。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
平凡な田舎の景色と、横の空いた座席に投げ出されているアルマの箱と、尾世川自身の声の中に何かつつましき祝祭がかがやいてい、藍子も軽やかな心持であった。
(新字新仮名) / 宮本百合子(著)
宋朝そうちょう初期のころには、紫雲しうん薫香くんこう精舎しょうじゃの鐘、とまれまだ人界の礼拝らいはいの上にかがやいていた名刹めいさつ瓦罐寺がかんじも、雨露うろ百余年、いまは政廟せいびょうのみだれとともに法灯ほうとうもまた到るところほろびんとするものか
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして毎朝五時すぎというと紺碧のかがやく空から逆落しのうなりを立てて、大編隊の空襲があった。
播州平野 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
と、無量な感慨をもらして、かがや金瓢きんぴょう馬簾ばれんをいつまでも見送っていた。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あしたは五月五日で、そろそろ送ったお祝がつくでしょうから二階の床の間に、初端午の兜の飾物がかがやくわけでしょう。かけものなんかでなくて賑やかで子供らしくてよかったわ。
満山の木々も染まるほど、やかた燎火にわびは燃えていた。——祝歌はながれて行く——町の民家も軒端軒端に、かがりをたいていた。祝歌につづく人馬や揺れかがやく輿のおおいは、その美しい焔の中を流れて行った。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
午後の日光が窓々の閉った建物の真正面を照し、軒蛇腹のきじゃばらのところの厚い金商牌きんかんばんを埃っぽく輝かせている。歩道の赤白縞の日除けの下を色彩の強い服装をした女が靴の留金をかがやかせて歩いて行く。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
この意気は、もとより彼ら箇々のものに違いないが、大きくると、秀吉の意気の投映であり、秀吉という主体を得て、初めて、太陽系をめぐる諸衛星のような勢いとかがやきを持ったということもできる。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)