やけ)” の例文
旧字:
わたし見たやうな、どうでもいゝものがやけど一ツしないでたすかつて、ねえ、お前さん、何一ツ不自由のない旦那方があの始末だからね。
買出し (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
やけを起してあくる朝、おまんまを抜きにしてすぐに昼寝で、日が暮れると向うの飯屋へ食いに行って、またあおりつけた。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
うろにのぞんでたきたてしに熊はさらにいでず、うろふかきゆゑにけふりおくいたらざるならんと次日つぎのひたきゞし山もやけよとたきけるに
この米をやけしま力米ちからごめといい、病人にかぎってかゆにしてすすらせた。火風水土の四厄しやくを凌いで育った米の精は強大で、たいていの病人は良薬ほどにも効いた。
藤九郎の島 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
こなひだ大杉栄氏が田端の家をまるやけにされて、家主から受取る筈の百円をふいにしてしまつた事を書いたが、暫くすると大杉氏から正誤書が入つて来た。
同じ豚でも生肉は非常に不消化だがハムにすると非常に消化がい。薩摩芋さつまいもおおきいのを食べると胸がやけるけれども裏漉うらごしにして梅干でえると胸へ持たん。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
シンガポールでやけつく大地を平気な顔で歩いてる素足の土人を見たがその足の大きさと裏皮の厚さを考えて感心したものだ、あの足の裏を一尺の近さに引よせて
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
棺内の空気は乾燥しきって、ほとんど呼吸も困難になって来た。それよりも恐ろしいのは、底の板のやける熱度だ。観念をした倭文子でさえ、もう我慢がし切れなくなった。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
加之しかも駐在所が一軒やけで、近所には何の事も無かった。の巡査も後に病気になったそうだよ。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
後日完全無欠の焼け野原となり、もうけたのは町会長とか、そういう連中で、疎開でねじ倒した材木だけやけないのがあったから、無断チャクフクして旬日ならずして新築した。
日月様 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
「世帯って、なにが世帯さア。こんな、やけトタンの急造きゅうぞうバラックにさ。けた茶碗が二つに、半分割れた土釜どがまが一つ、たったそれっきり、あんたも、あたしも、着たきりじゃないの」
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そのうち、わしはやけへ参って噴火の本元を見届けて来ようと思いますが、今日は皆さんの御見舞を兼ねて、ひとつ皆さんの安心のために、山神のはらいをして上げたいと思って来ました
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
わたし見たような、どうでもいいものが、やけど一ツしないでたすかって、ねえ、お前さん、何一ツ不自由のない旦那方があの始末だからね。
買出し (新字新仮名) / 永井荷風(著)
足のうらがくすぐってえ、といった陽気でいながら、やり、穂高、大天井、やけにやけヶ嶽などという、大薩摩おおざつまでものすごいのが、雲の上にかさなって、天に、大波を立てている、……裏の峰が
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
火の玉がやけを起して、伊豆の大島へころがり込んで行ったんですって。芝居ですると、鎮西八郎為朝ためともたこを上げて、身代りの鬼夜叉おにやしゃやかたへ火をかけて、炎のうち立腹たちばらを切った処でさ。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)