炎々えんえん)” の例文
と同時に彼の執拗な復讐感は、何時の間にか、野火のように、限りなき憎悪の風に送られて、炎々えんえんと燃え拡がって行ったのだ。
鉄路 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
杉の木立ちのあいだに、ものものしい竹の矢来やらいを結びめぐらし、出口入口には炎々えんえんたる炬火かがりびが夜空の星をこがしています。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
余は呆然として船首より船尾へと走りしが、炎々えんえんと閃めく火光にふとこの巨船の船尾を見れば、そこには古色蒼然たる黄銅をもって、左の数字を記されたり。
南極の怪事 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
彼は灼鉄しゃくてつ炎々えんえんと立ちのぼる坩堝るつぼの中に身を投じたように感じた——が、そのあとは、意識を失ってしまった。
英本土上陸戦の前夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
丘の起伏には炎々えんえんたる松明たいまつが空を焦がして、馬が、人が、小さく、列をなして影絵のように避難して行く。
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
又八をして、ぷんぷんと怒らせたものとは、いったいなんであろうか——と空をあおいで見ると、炎々えんえんとのぼるかがりの煙にいぶされて、高いやぐらがそびえていた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
炎々えんえんと燃えあがった塔上とうじょうの聖火に、おなじく塔上の聖火に立った七人の喇叭手らっぱしゅが、おごそかに吹奏すいそうする嚠喨りゅうりょうたる喇叭の音、その余韻よいんも未だ消えない中、荘重そうちょうに聖歌を合唱し始めた
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
それから埴生坂はにうざかという坂までおいでになりまして、そこから、はるかに難波なにわの方をふりかえってごらんになりますと、お宮の火はまだ炎々えんえんとまっかに燃え立っておりました。天皇は
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
炎々えんえんたる火光と黒煙のあいだに父は非常な迅速じんそくさをもって帳簿箱に油を注いでいる、石油のにおいは窒息ちっそくするばかりにはげしく鼻をつく、そうしてすさまじい勢いをもって煙を一ぱいにみなぎらす
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
その国の徳衰えたくきて、内憂外患こも/″\せまり、滅亡になりなんとする世には、崩じておくられざるみかどのおわすためしもあれど、明のの後なお二百五十年も続きて、この時太祖の盛徳偉業、炎々えんえんの威を揚げ
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
当時とうじわたくしどものむねにはまさ修羅しゅら業火ごうか炎々えんえんえてりました。
音も立てず、神々しい絶大な力で、白熱と烈火と炎々えんえんたるほのおとが、もくもくと立ちのぼってくる。そしてひずめをかいこみながら、女神の兄弟の御する神聖な駿馬しゅんめが、高く地をこえて昇ってくる。
野火やか炎々えんえん絹地きぬじに三羽の烏あらはる。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
静かな中に、炎々えんえんたる熱を宿した作阿弥の姿は、つめたい焔のように、見る人の胸を焼きつらぬかずにはおかない。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
いま、砦の一ヵ所に炎々えんえんかがりをたいて、床几しょうぎにかけながらこう話しているのは、忍剣にんけん龍太郎りゅうたろうであった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その写真には、炎々えんえんたるほのおに包まれた、ミマツ曲馬団の天幕テントがうつっていた。夢ではないのだ。なんという不運なミマツ曲馬団であろうか。一体、この火事の原因は何であろうか。
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それらの炎々えんえんたるほのおはすべて阪井の上に燃えうつった。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
その小さな老人のすわった姿が、この狭い部屋いっぱいにあふれそうに、大きく見えるのは、彼の持つわざの力が、放射線のように、にわかに炎々えんえんと射しはじめたのであろうか。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
席を立った者たちが三つあしのかがり火を、左右五、六ヵ所へ炎々えんえんと燃したてるまに、忍剣は、さきに梅雪ばいせつ郎党ろうどうたちが、湖底から引きあげておいた石櫃をかかえてきて、やおら
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さて、それから間もなく、ヘリコプターの爆音が、西の空に消え去るのを待って、三人が山小屋から外へとびだしてみると、東のかた、六天山の上空には、炎々えんえんたるほのおがもえあがっていた。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
とたちまち、炎々えんえんたる狂い火が、蹴破られた雨戸から大廂おおびさしはりを流れて、いっせいに燃えあがり、凍りきっている冬の夜の空へ、カアーッと火柱が立ったのは、それから、ほんの一瞬の後——。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
といっているとき、夜の静寂せいじゃくを破って、どどーんの一大音響が聞え、愛宕山あたごやまが、地震のように動いた。それと同時に、山手寄りの町に炎々えんえんたる火柱がぐんぐん立ちのぼって、天をがしはじめた。
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そして、炎々えんえんたるひとみで、牢獄のうちをめまわした。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)