うろ)” の例文
わたしの近所には木のうろに住んでいる人間がいた。彼の態度は真に王者のふうがあった。わたしはむしろ彼をおとずれた方がよかった。
元来、景時は平家系の人間だが、石橋山で頼朝が惨敗し、大木のうろに隠れていたのを、彼が知りながら見遁みのがしてやったため、後に、鎌倉へ召されて重用された人物である。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
用意よういをはればたゞちにはしりて、一本榎いつぽんえのきうろより數十條すうじふでうくちなはとらきたり、投込なげこむと同時どうじ緻密こまかなるざるおほひ、うへにはひし大石たいせきき、枯草こさうふすべて、したより爆※ぱツ/\けば
蛇くひ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
門際の八重桜は、幹の半面に、太郎が隠れることが出来るほどのうろをもつた老樹で、どこに花が咲くかとおもはれる枯木なのだが、季節になるとやはり水々しい花を開いた。
サクラの花びら (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
牝牡めすをすおなじあなこもらず、めすの子あるは子とおなじくこもる。其蔵蟄あなごもりする所は大木の雪頽なだれたふれてくちたるうろ(なだれの事下にしるす)又は岩間いはのあひ土穴つちあな、かれが心にしたがつる処さだめがたし。
おどろくべき壮大なる石の屏風がそそり立って、側面の岩石は亀甲形に分裂し、背は庖刀ほうちょうの如く薄く、岩と岩とは鋭く截ち割られて、しかも手をかけると、虫歯のうろのようにポロポロと欠けるので
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
小笠原嶋荒磯ありそうろに寄る波のゆたのたゆたに日の永きかも
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
にほなきにうらびれて、一日ひとひうろ
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
朽木のうろに隱れたる
花守 (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
わたしは、これらの鳥は白人がこの地にやってくる前に木のうろに住んでいた特別な古い種族なのだと想像した。ほとんどこの土地でも亀と蛙はこの季節の先駆者であり伝令である。
すると、裏店のいどのわきにそびえている大きなけやきうろから
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
匂ひなきにうらびれて、一日ひとひうろ
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)