江戸児えどっこ)” の例文
旧字:江戸兒
そのおもて赤しといえども、その力大なりといえども、山男にて手を加えんとせんか、女が江戸児えどっこなら撲倒はりたおす、……御一笑あれ、国男の君。
遠野の奇聞 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
江戸児えどっこである。家従は大抵三十代の男であるのに、この男は四十を越していた。僕は家従等に比べると、この男が余程賢いと思っていた。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
浮世絵師の伝記を調べたる人は国芳がきわめ伝法肌でんぽうはだ江戸児えどっこたる事を知れり。この図の如きはまことによくその性情を示したる山水画にあらずや。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
江戸児えどっこの気概が契機として含まれている。野暮と化物とは箱根より東に住まぬことを「生粋きっすい」の江戸児は誇りとした。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
此れも親父同様生え抜きの江戸児えどっこ、而も深川は小名木おなぎ川の辺に生れて辰巳風を吹かせるから、頗る言葉が粗い。あたいはいっそ口惜しくってならねえよ。
The Affair of Two Watches (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
猛烈な流行性をって往々に人をたおすようなこの怖るべき病に対して、特にお染という最も可愛らしい名を与えたのはすこぶる面白い対照である、流石さすが江戸児えどっこらしい所がある。
二階から (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
○上野の動物園にいつて見ると(今は知らぬが)前には虎のおりの前などに来ると、もの珍し気に江戸児えどっこのちやきちやきなどが立留たちどまつて見て、鼻をつまみながら、くせえくせえなどと悪口をいつて居る。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
男「へい旦那も江戸児えどっこのようなお言葉遣いでげすね」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
船頭もまた臆病おくびょうすぎる。江戸児えどっこだろうに、おぼれた女とも、身投ともわきまえず、棒杭ぼうぐいのようにかたくなって、ただ、しい、しい、しずかにとばかり。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ここにおいて江戸児えどっこは水道の水と合せて富士の眺望を東都のほこりとなした。西に富士ヶ根東に筑波つくばの一語は誠によく武蔵野の風景をいい尽したものである。
新造に取着とッつかれるおぼえはないから、別に殺そうというのじゃあなかろう、生命いのちに別条がないときまりゃ、大威張りの江戸児えどっこ
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
田舎者のはなしはしちくどくして欠伸あくびの種となり江戸児えどっこの早口は話の前後多くは顛倒てんとうしてその意を得がたし。談話の善悪上品下品下手へた上手じょうずはその人にあり。学ぶも得やすからず。
小説作法 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
鍋焼饂飩うどん江戸児えどっこでない、多くは信州の山男と聞く。……鹿児島の猛者もさが羅宇の嵌替すげかえは無い図でない。しかも着ていたのが巡査の古服、——家鳴やなり震動大笑おおわらい
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
倫理学者デニング先生の講義は江戸児えどっこ流の巻舌まきじたと滞りなき日本語とによって聴客を驚かせた。これから先の世の中にもそれに似たような事が続々として現われずにはいないであろう。
仮寐の夢 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「ま、待たっしゃれ今燈明をける。」と膝行いざり歩きて、燧火マッチか、附木か、探す様子。江戸児えどっこれ込み、「こう早く教えてくんねえ。御前様が待っていなさらあ。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さういふ男は女郎屋なぞに上ればかへつてさつぱりしたものなり。江戸児えどっこの職人なぞにこの類多し。助兵衛にあらず飢ゑたるにもあらずして女をからかふは何の故ぞや。唯面白ければなり。
猥褻独問答 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
女二人が天麩羅で、祖母おばあさんと私が饂飩なんだよ。考えて見ると、その時分から意気地の無い江戸児えどっこさ。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
江戸児えどっこだと、見たが可い! 野郎がそんな不状ぶざまをすると、それが情人いろならかんざしでも刺殺す……金子かねで売った身体からだだったら、思切って、つっと立って、袖を払って帰るんだ。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この江戸児えどっこ、意気まだ衰えず、と内心大恐悦。おおいに健康を祝そうという処だけれども、ありますまい。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
奴なきお夏さんは、撞木しゅもくなき時の鐘。涙のない恋、戦争のない歴史、達引たてひきのない江戸児えどっこ、江戸児のない東京だ。ああ、しかし贅六ぜいろくでも可い、私は基督教キリストきょうを信じても可い。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「黙ってろ。俺もこう見えて江戸児えどっこだ。巽の仮声こわいろがうめえんだ。……」
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
他人に路をかれて喜んで教えるような江戸児えどっこではない。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
江戸児えどっこは心得たものね。」
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「酒井先生は江戸児えどっこだ!」
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)