擬勢ぎせい)” の例文
井村は擬勢ぎせいを張って、兵馬の問いをいちいちね返そうとしているらしいが、不安の念は言葉づかいの乱れゆくのでわかるのです。
擬勢ぎせいを示した。自動車は次第に動揺が烈しくなって乗込のりこみました。入江に渡した村はずれの土橋などは危なかしいものでした。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
が、やがて勇気を振い起すと、胸に組んでいた腕を解いて、今にも彼等を片っ端から薙倒なぎたおしそうな擬勢ぎせいを示しながら、いかずちのように怒鳴りつけた。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
元々、摂津せっつの中川、池田、高山らにたいして、万一の変あらばと、擬勢ぎせいを張っていたに過ぎないものだった。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
擬勢ぎせいである、口先でこそあんなことを云いながらも、彼女にも人間らしい心が、少しでも残っている以上、心の中では可なり良心の苛責かしゃくを受けているのに違ない。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
ぐにこたへて、坂上さかがみのまゝ立留たちどまつて、振向ふりむいた……ひやりとかたからすくみながら、矢庭やにはえるいぬに、(畜生ちくしやう、)とて擬勢ぎせいしめ意氣組いきぐみである。
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
右の武士は、慣れた人と見えて、一目ひとめ猿をにらみつけると、猿は怖れをなして、なお高い所から、しきりに擬勢ぎせいを示すのを、取合わず峠の前後を見廻して人待ち顔です。
あんずるに、錦は錦でも、それは無知な野性を駆るための衆愚の旗、つまり擬勢ぎせいだったにちがいない。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
宮田は、村川だと知ると、ちょっとおどろいたらしいが、擬勢ぎせいは少しもくずさなかった。
第二の接吻 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
兄はまた擬勢ぎせいを見せて、一足彼の方へ進もうとした。
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
兵法でいう“まぎれ”と申す敵の擬勢ぎせいだ。あきらかに敵の主力は、和田ノみさきの一軍団、湊川のかみに見える会下山の一隊。——また、会下山と和田ノ岬との中間にある大軍勢。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わたし薪雜棒まきざつぽうつてて、亞鉛トタン一番いちばんしのぎけづつてたゝかはうかな。」と喧嘩けんくわぎてのぼうちぎりで擬勢ぎせいしめすと、「まあ、かつたわね、ありがたい。」とうれしいより、ありがたいのが
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
倭文子は、宮田を振りはらって、すぐにでも海へ飛び入りそうな擬勢ぎせいを示した。
第二の接吻 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
何様なにさま、旗も煙も、たしかに擬勢ぎせいだ。鹵城は今や空城あきしろにちがいない。いざ追い撃たん」
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そちは残れ。そして、八王子から三ノ宮林へかけ、たくさんな松明をとぼしつらねて、敵をあざむく擬勢ぎせいをつくれ。そのまに、われらはべつな道より、山を降りて落ち行こうほどに」
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし、梁山泊がたにそんな大兵はあるはずもないから、これは宋江が土地ところの農民や雑夫ぞうふを狩り集めて兵鼓へいこを振るわせた擬勢ぎせいであったに相違ない。けれど城中の驚きは一ト通りでなく
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)