持囃もてはや)” の例文
福井がこうして持囃もてはやされるにつけて、ここに手持無沙汰の人間がふたり出来た。それは三上治太郎と大原右之助でなければならない。
鐘ヶ淵 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
当時は仏蘭西フランスの第三世ナポレヲンが欧洲第一の政治家と持囃もてはやされてエライ勢力であったが、隣国の普魯士プロスも日の出の新進国で油断はならぬ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
後世インドで一向持囃もてはやされず、その画も像も見及ばぬ(一九一三年板ウィルキンスの『印度鬼神誌』四〇一頁。アイテルの『梵漢語彙』一九三頁)
しかしこういうごうつくばりの男の事故ことゆえ、芸者が好きだといっても、当時新橋しんばし第一流の名花と世に持囃もてはやされる名古屋種なごやだねの美人なぞに目をくれるのではない。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
四方太しほうだは『八笑人はっしょうじん』の愛読者なりといふ。おおいにわが心を得たり。恋愛小説のみ持囃もてはやさるる中に鯉丈りじょう崇拝とは珍し。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
土地びいきの多い人達のなかでは、勝手が違って勤めにくかったが、鉱山やまから来る連中には可也に持囃もてはやされた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
今日でこそ、大衆文芸の一典型とまで持囃もてはやされているが、発表当時は勿論、大正十二三年頃に到る迄は、その存在すら一般には認められなかったのであった。
大衆文芸作法 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
勿論おもしろくないものや、味のないものや、平凡のものを持囃もてはやしたのではない。人をしてなるほどと首肯点頭しゅこうてんとうせしむるに足るだけの骨董を珍重したのである。
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
山田やまだともかず石橋いしばしとも付かずでお茶をにごしてたのです、其頃そのころ世間せけん持囃もてはやされた読物よみものは、はるのやくん書生気質しよせいかたぎ南翠なんすゐくんなんで有つたか、社会小説しやくわいせうせつでした、それから
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
しゅうのために命を捨てたさむらいよと、世に持囃もてはやされる身になっても、わしの身寄りの者が誰一人それを聞いていてくれるものがないかと思えば、何となくうら淋しい気もする。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
この問題は一たびこれを読んで以来、またわれわれの心頭を離れぬものとなっている。世に持囃もてはやされる者、広く人に知られたものばかりが、見るべき内容を有するのではない。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
何処どこの棟梁手合でも大芳といえば一もくも二目もおいているほどで、江戸中の大工さんで此家こゝへ来ないものはない。そんなに持囃もてはやされて居りますが大芳さん少しも高慢な顔をしない。
見給みたまえ、一時は相当の声望信用あって世上に持囃もてはやされた連中でもいつとはなく社会と遠ざかり、全然時勢後れの骨董物となりさがりて、からくも過去の惰力によりて旧位置を維持している者や
我輩の智識吸収法 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
打ても差止さしとめおかねば町法が立ざるなりとはげしき言葉に彌々いよ/\恐れ昨夜ゆうべは昨夜女郎にふられ今朝は今朝とて此災難斯までうんわるくなる者か夫に付てもきち野郎やらうは昨夜も一人持囃もてはやされ今朝も先へ拔て歸り仕合者しあはせものよとつぶやき/\自身番屋へ上りこみ檢使けんし出張でばる
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
宮の名の男のかた持囃もてはやさるる如く、富山と知れたる彼の名はただちに女の口々にずんぜられぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
それから一貫張りの机が一時は流行しました。これも柔かでよいのと、軽くてよいのと、値段が割合に高くないのとで、一時は非常に持囃もてはやされましたが、何分にも紙を貼ったものであるからいたみ易い。
私の机 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
薜氏せつしの池という今日まで名の残る位の釣堀つりぼりさえあった位ですから、竿屋だとて沢山たくさんありましたろうに、当時持囃もてはやされた詩人の身で、自分で藪くぐりなんぞをしてまでも気に入った竿を得たがったのも
幻談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)