打擲ちやうちやく)” の例文
僅の袖の擦り合ひにももつれだして、お互を打擲ちやうちやくし合ふまで罵り交はさなければ止まないやうな日はこの二人の間には珍らしくなかつた。
木乃伊の口紅 (旧字旧仮名) / 田村俊子(著)
讀了よみをはり藤八サア是でも汝等うぬらは爭ふかと云れて九郎兵衞は今更面目なさに娘お里を引据此猥婬者めと人前つくら打擲ちやうちやく後家ごけのお深も猶惣内を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
人の噂では士官の面部を打擲ちやうちやくしたと云ふことである。兎に角普通なら、この時ステパンは貶黜べんちつせられて兵卒になる所であつた。
『一ッくるまなんだらう?』とはおもつたものゝかんがへてるひまもなく、やが砂礫されきあめまどりかゝるとに、二三にんしてあいちやんのかほ打擲ちやうちやくしました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
野だは二三秒の間毒気を抜かれた体で、ぼんやりして居たが、おや是はひどい。御ぶちになつたのは情ない。この吉川を御打擲ちやうちやくとは恐れ入つた。愈以て日清談判だ。
坊っちやん (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
先刻さつきジョンになぐられてころんで怪我をした私の頭は、未だに痛みがまず、血が流れてゐた。ジョンが、無法な打擲ちやうちやくの手を私に加へても、たしなめる者も無いのだ。
『なんぢはまことの孔雀でもないに、なぜにわれらをおとしめるぞ』と、取りまはいてさんざんに打擲ちやうちやくしたれば、羽根は抜かれ脚は折られ、なよなよとなつて息が絶えた。
孔雀 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
いふより早し肩先てうと蹴倒し、詫ぶる詞は耳にもかけず、力に任せて打擲ちやうちやくしつ
心の鬼 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
今にも貴嬢あなた打擲ちやうちやくなさるかと、お側に居る私さへ身がふるひました——それに奥様の悪態を御覧遊ばせ、恩知らずの、人非人にんぴにんの、なんのと、ても口にされる訳のものでは御座いませぬ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
はげしくゆすりうごかし、靜にせずば打擲ちやうちやくせむ、といひしが、急に手巾ハンケチを引き出して、我腕を縛りて、しかと其端を取り、さて俯してあまたゝび我に接吻し、かはゆき子なり、そちも聖母に願へ
父は先生の所から帰つて、火箸ひばし打擲ちやうちやくせられて残念だと申したさうでございます。あくる朝父は弟の謹之助きんのすけを連れて、天満宮てんまんぐうへ参ると云つて出ましたが、それきりどちらへ参つたか、帰りません。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
私は誰か来てかばつて呉れるか、伯父がもつと優しい顔して居たかすると、どんなに大声に泣き叫んだかも知れなかつた。けれども、泣けば尚酷く打擲ちやうちやくされるだらうことを知つて居たので、堪へ忍んだ。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
かなしければ君をこよなく打擲ちやうちやくすあまりにダリヤあかく恨めし
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
後藤はとゞ否々いや/\打擲ちやうちやくなしてもし打處が惡く殺しもなさば死人に口無却つて面倒めんだうなり先々拙者の連こそ幸ひ某しにまかすべし面白き計らひあり命を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ジョン・リードの罵倒には、れつこになつてゐたので、私は、返答なぞしようとは思はなかつた。私の心配なのは、はづかしめられた後に、きつとやつて來る打擲ちやうちやくに、どうして耐へるかと云ふことだつた。
言掛るかたりなりとて一同立掛り打擲ちやうちやくして表へ突出つきいだしければ大聲揚て泣出なきいだし如何にも皆々疑はるゝは是非なけれど私しはゆすかたりをする樣な者にては決して之なしと種々いろ/\申し譯を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)