ひら)” の例文
ブドウの実は誰れでも知っているように甘い液汁を含んだ漿果で味がい。そして果内に僅かの緑褐色なややひらたい種子がある。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
二寸も突込つきこもうと云うには非常の力を入れて握るから二ツの脚が一ツにるのサ(大)一ツになっても穴は横にひらたく開く筈だ
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
そして一つ一つ何やら円いひらたいものを撥ね上げて進みます。円い扁たいものが撥ね除けられた跡には、見るも潤って美しい踏石の面が現れ出ました。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
全体水蛇は尾が海蛇のようにひらたからず、また海蛇は陸で運動し得ず、皮を替えるに蜥蜴同然片々に裂け落ちるに、水蛇は陸にも上りある全然まるきり皮を脱ぐ。
ただそれが屋根の三角の角度を、こんなにひらたくしたのは新らしいことで、手みじかにいうと、かわらがわたしたちの手にはいりやすくなった結果なのである。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そればかりでなく煙管の吸口をガリガリ噛むので銀の吸口がひらたくひしゃげていたようである。
喫煙四十年 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
すると黄と青じろとまだらになって、なにかのあかりのようにひかる雁が、ちょうどさっきの鷺のように、くちばしをそろえて、少しひらべったくなって、ならんでいました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
しかし結い立ての銀杏返いちょうがえしのびんせみのように薄いのと、鼻の高い、細長い、やや寂しい顔が、どこの加減か額から頬に掛けて少しひらたいような感じをさせるのとが目に留まった。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
小さな鶏卵たまごの、軽くかどを取ってひらめて、薄漆うすうるしを掛けたような、つややかな堅い実である。
栃の実 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さはらがあがるころとなると、大地の温みに長い冬の眠から覚めたこの小さな蔬菜は、そのひらべつたく、柔かな葉先で、重い畔土のかたまりを押し分けて、毎日のやうに寸を伸して来る。
独楽園 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
此の夜縄をやるのは矢張り東京のものもやるが、世帯船しょたいぶねというやつで、生活の道具を一切備えている、底のひらたい、後先もない様な、見苦しい小船に乗って居る余所よその国のものがやるのが多い。
夜の隅田川 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それで元来た道の方へと引きかえした。一丁ほど走ると、カーンと靴先に音があって何か金属製のひらったいものを蹴とばした。探してみると、それは銀製のシガレット・ケースにすぎなかった。
人造人間殺害事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
方一尺ほどでひらたく出来て、先ず硯箱の聊か大きい様なものだ、先刻権田時介が小脇に挾んで去った品も或いは此の類の箱ではなかったか知らん。
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
ただひらたく珍らしいばかりだ。が少し歩るいて居るうちに永年居慣れた西洋の街や外景と何ももが比較される。
豆腐買い (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
秋冬ブナやカシの下の地中に生ず。イタリアでもっとも貴ばるるチュベール・マグナツムは疣なく、形ザッと蜜柑みかんの皮を剥いだ跡で嚢の潰れぬ程度にひらめたようだ。
これにはんして釜無川かまなしかわの岸にちかい信州境しんしゅうざかいの農家は、枌板そぎいたをもって葺くものだから、東の郡内やそのつづきにくらべると、屋根がずっとひらたくなっているのである。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
足が砂へつくやいなや、まるで雪のけるように、ちぢまってひらべったくなって、間もなく熔鉱炉ようこうろから出た銅のしるのように、砂や砂利じゃりの上にひろがり、しばらくは鳥の形が、砂についているのでしたが
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
その一つは板葺き一派の三角のゆるいひらたいもので、ささ板やこけら板で葺いたのから、はだ、杉皮すぎかわの屋根まであり、現在さかんに建っている瓦葺かわらぶきもその中にふくめてよい。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
可怖おそるべし、また高吼の義という。翼生えた若い極醜女で、髪も帯も、蛇で、顔円く、鼻ひらたく、出歯大きく、頭を揚げ、舌を垂れ振るう。あるいはいう、金の翼、真鍮の爪、猪の牙ありと。
何が原因か全体髪の毛は先ず大方円いとした者で、夫がもとからすえまで一様に円いなら決して縮れませんうかすると中程につかひしいだ様に薄ッぴらたい所が有る其ひらたい所が縮れるのです
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
伊良湖いらごで椰子とともに私が拾った中にも、藤の実の形をしてさやが二尺もあり、かたひらたい濃茶色こいちゃいろの豆をもったものを、土地でもモダマと呼んでいたから同じもので、産地季節が同じかったために
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)