成人おとな)” の例文
御覧の如く前輪は恰も水車のやうに大きく、後の輪がお盆のやうに小さい地金製の三輪車であるが、然も之が成人おとな乗用車ロードスターなんだぜ。
さう云ふ時のさびしい、たよりのない心もちは、成人おとなになるにつれて、忘れてしまふ。或は思ひ出さうとしても、容易に思ひ出しにくい。
世之助の話 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
といいながら、身を震わしてやにわに胸に抱きついて来て、乳の間のくぼみに顔をうずめながら、成人おとなのするような泣きじゃくりをして
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
武は、モウ成人おとなになつて、此湖水などへは舟で幾度も遊びに来たことが有り升。しかし其後鼻でつりをしたといふうはさは、一度もきこえません。
鼻で鱒を釣つた話(実事) (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
そんな悪少年は島の内で制裁すればいいと思われるのに、それがどうして、島の成人おとなたちが逆におびえている有様なのだそうだ。
子供だから、勿論はたの成人おとなほど、そう云う数学的な心配はしない。ただ入りたい、入れないでは困る、と一心になって、下稽古をしたのである。
入学試験前後 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
金をとらかす日影椎の梢に残り、芝生はすでに蔭に入り、ひぐらしの声何処からともなく流れて来ると、成人おとなも子供も嬉々ききとして青芝の上の晩餐ばんさんの席に就くのである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「冗談でしょう、僕はまた真面目まじめにお話ししていましたよ」私は成人おとならしい少年こどもだ、母と叔父の家に寄寓してから、それはもう随分気がね、苦労の数をつくした。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
實體の瓦石とは、生れながらの成人おとなである。パリサイの學徒である。眞實のない製詩職工である。
散文詩・詩的散文 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
旅泊のつれ/″\に、濱から拾うて來た小石で、子供一人成人おとな二人でおはじきをする。
熊の足跡 (旧字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
苧環をだまき成人おとなびてゐないのが身上しんじやうの女學生、短い袴、ほそあし、燕の羽根はねのやうに動くうで
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
須利耶すりやさまは何気なにげないふうで、そんな成人おとなのようなことをうもんじゃないとはっしゃいましたが、本統ほんとうは少しその天の子供がおそろしくもお思いでしたと、まあそうもうつたえます。
雁の童子 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ほかにも、来ている成人おとながあった。若い男女と、中年の女の人であった。若い男は、江戸川べりの古い仏具屋の息子むすこで、普段から、一空さまの学房に何かと力を寄せている人だった。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
私はあの少年が成人おとなの坐る席に坐っていたのを見ましたし、また先輩と肩をならべて歩くのを見ました。あの少年は学問の上達を求めているのでなく、早く成人おとなになりたがっているのです。
現代訳論語 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
戦国時代以降の御伽衆おとぎしゅうはなし(桑田忠親著『大名と御伽衆』参照)に似かよった性格のもので、もとより成人おとな相手の咄であり、「キンデル・メールヒェン」となって始めて子ども向きのお伽噺とぎばなしとなり
『グリム童話集』序 (新字新仮名) / 金田鬼一(著)
成人おとなもよろこぶ
未刊童謡 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
次第に成人おとなになるのに従って、そう云う先生の存在自身さえ、ほとんど忘れてしまうくらい、全然何の愛惜も抱かなかったものである。
毛利先生 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
新吉は、他の成人おとなの誰もがそんなに熱心に自分の写真帖などを見て呉れる者もなかつたので、何かうつとりとするやうな会心さを覚えた。
淡雪 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
そんな惡少年は島の内で制裁すればいいと思はれるのに、それがどうして、島の成人おとな達が逆におびえてゐる有樣なのださうだ。
雹の通る路筋みちすじはほゞきまって居る。大抵上流地から多摩川たまがわに沿うてくだり、此辺の村をかすめて、東南に過ぎて行く。既に五年前も成人おとな拳大こぶしほどの恐ろしい雹を降らした。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
二人の仲の好い成人おとなが、子供の片言のようなことをしゃべり合って、何時間もの長い間、笑ったりたわむれたりしている風景こそ、おそらく真にフェアリイランド的であったろう。
そして小屋の中が真暗になった日のくれぐれに、何物にか助けを求める成人おとなのような表情を眼に現わして、あてどもなくそこらを見廻していたが、次第次第に息が絶えてしまった。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
子供も 成人おとな
未刊童謡 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
彼は、成人おとなと成人が利慾の上から夫々唯物的な主張を持つて、反目のまゝ、対坐する光景ありさまは想つても冷汗が流れるのであつた。
村のストア派 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
颯爽さっそうとした(少くとも成人おとなの)議論の立派に出来る自分なのに、之は一体どうした訳だろう? 最も原始的なカテキズム、幼稚な奇蹟反駁論はんばくろん
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
西北の空が真暗になって、甲州の空の根方のみみょう黄朱おうしゅなすった様になる時は、屹度何か出て来る。すでに明治四十一年の春の暮、成人おとな握掌大にぎりこぶしほどの素晴しい雹が降った時もそうだった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
もともとそれらは私たちがつくった成人おとな用の御面なので、五体にくらべて顔ばかりが大変に不釣合なのが奇抜に映った。
鬼涙村 (新字新仮名) / 牧野信一(著)
前者は誰にでもある・成人おとなの言葉でいえば「自己を神にしたい」慾望だったが、後者は「この世界を絶対信頼に値する・確乎たるものと信じたい」
狼疾記 (新字新仮名) / 中島敦(著)
成人おとなの小説を書いたフロオベェルよりも、子供の物語を残したディッケンズの方が、成人おとななのではないか、と。但し、此の考え方にも危険はある。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
もともとそれらは私達がつくつた成人おとな用の御面なので、五体にくらべて顔ばかりが大変に不釣合なのが奇抜に映つた。
鬼涙村 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
成人おとな、子供、ということで、もう一つ。英国の下手な小説と、仏蘭西フランスうまい小説に就いて。(仏蘭西人はどうして、あんなに小説が巧いんだろう?)
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
僕も早慶戦を観に行く毎に、早稲田の応援団の中に大音寺虎雄の応援振りを空想して、近ごろ成人おとなぶつて大声などは出したくない自分の熱を発散せしめてゐる。
大音寺君! (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
成人おとなばかりの間にたつた一人の子供では、可愛がられるのが當り前のやうだが、此の場合は、それに多分の原始宗教的な畏怖と哀感とが加はつてゐるのである。
「新ちやん、そんなものを見てゐちや駄目だよ。酒を飲んでゐる成人おとななんて皆な馬鹿なんだ。あんな騒ぎに耳を借しても毒さ。恰で猫化けか狸のやうぢやないか。」
淡雪 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
成人おとなばかりの間にたった一人の子供では、可愛がられるのが当り前のようだが、この場合は、それに多分の原始宗教的な畏怖いふと哀感とが加わっているのである。
その癖、成人おとなの姿に面と向つて接すると、はにかみなのか低脳なのか察しもつかぬのであるが、土竜のやうにむつつりとしてしまつて、ものを尋ねても返事もしなかつた。
創作生活にて (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
祖母の訃を受けて帰国した私の父は、毎日退屈をかこつて、二年三年生の私ばかりを相手に鉄砲打に出かけたり、ポーカーを教へたりして、何となく成人おとなの友達扱ひであつた。
熱海線私語 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
人間は何時迄たつても仲々成人おとなにならないものだと思ふ。
かめれおん日記 (旧字旧仮名) / 中島敦(著)
その時の写真を後年成人おとなになつた新吉は、英介の書類の箱から見出した。小園は夜会巻といふあたまで、椅子に正面を向いた祖父の背後に立ち、藤吉と新吉がその両脇に立つてゐた。
淡雪 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
自分は一体、成人おとななのか、赤児なのか、それとも、もう人間ではなくなつてゐるのかといふやうな全く得体の知れぬ狂ほしさと悲しさで、精一杯に泣き叫び、私は柚太の横腹を蹴つた。
剥製 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
私はさう云ひ残して、ベンチを離れたが、到底そんな成人おとなの役まはりなどは演ぜられさうもなかつた。おもつただけでも胸の中が冷々として、まつたく穴にでも潜つてしまひたいやうな厭味を覚えた。
真夏の朝のひとゝき (新字旧仮名) / 牧野信一(著)