なまじ)” の例文
つれなかりし昔の報いとならば、此身を千千ちゞきざまるゝとも露壓つゆいとはぬに、なまじあだなさけの御言葉は、心狹き妾に、恥ぢて死ねとの御事か。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
政「親方そう泥坊をぶん殴って、なまじいに殺してはかえって係り合になりますから、ふん縛って突出つきだしたら宜しゅうございましょう」
受たる十三兩の金子はまけてあげやうほどに跡の金を殘らず御返しなされ然すれば此事は是切これきりにして上るなり夫が一番上分別じやうふんべつなまじひにおし
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
なまじい隠しだてされるとやり難いんですが——、それはきっと初子に取って不利な事なんでしょう、しかし、僕の主義として徹底的に調べたいんです。
青い風呂敷包 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
又考へて見ると、なまじひ人などを信じるよりは金銭を信じた方が間違が無い。人間よりは金銭の方がはるたのみになりますよ。頼にならんのは人の心です!
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
であるからなまじいな学者達、もしくは道徳家達は福沢は不都合な奴だとか、社会の道徳を破壊するとか、福沢の議論は浅薄だとか、いわゆる倫理、道徳
おのれやれ是が味方であったら……此処からわめけば、彼処あすこからでもよもや聴付けぬ事はあるまい。なまじいに早まって虎狼ころうのような日傭兵ひやといへいの手に掛ろうより、其方がい。
われに計略はかりごとあり、及ばぬまでも試み給はずや、およきつねたぬきたぐいは、その性質さがいたっ狡猾わるがしこく、猜疑うたがい深き獣なれば、なまじいにたくみたりとも、容易たやすく捕へ得つべうもあらねど。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
何をって、僕はなまじっか文学の分る連中よりも仕事が手っ取り早いよ。考える世話がないから簡単だ。前の晩に泊った宿屋の横額を手帳につけて置いてそれを利用する。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
なまじひに教養のあればあるだけ、自らを省みて臆病にしか振舞ふことが出来なかつたので、私に救ひを求めるやうな——それでゐて、決して然し自分の要求を露骨には表はすことが出来ずに
名は小使だが、一平には特殊の技能と一種の特權があツて、其の解剖室で威張ることはなまじツかの助手をしのぐ位だ……といふのは、解剖する屍體を解剖臺に載せるまでの一切の世話はいふまでも無い。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
なまじひ、波の音ばかりが
畑の祭 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
なまじ継子ままこなどに生れたらんよりは、かくて在りなんこそ幾許いかばかりさいはひは多からんよ、と知る人はうはさし合へり。隆三夫婦はに彼を恩人の忘形見としておろそかならず取扱ひけるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
晴さんとの惡念あくねんきざしけるこそ恐ろしけれ斯て吾助はよきをりあれかしとひまうかゞひけるに喜内は何事も愼み深く其上武術に達しければなまじひに手出をなして仕損じては一大事と空敷むなしく半年餘りを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
何卒どうぞお見逃し下さい、親共は堅い気性でございまして、此の儘帰れば手打に相成ります、それもいといませんがかえってなまじい立腹をさせるよりは今一思ひとおもいに死んだ方が宜いと存じますから……
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
陽炎かげろふの影より淡き身をなまじき殘りて、木枯嵐こがらしの風の宿となり果てては、我が爲に哀れを慰むる鳥もなし、家仆れ國滅びて六尺の身おくに處なく、天低く地薄くして昔をかへす夢もなし。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
わたしのやうな者がなまじひ人間の道を守つてをつたら、とてもこの世の中は渡れんと悟りましたから、学校をめるとともに人間も罷めて了つて、この商売を始めましたので」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
もとより稻垣の家を興す認めはござらん、生甲斐のない我が身の果、死する時に死せざれば死に勝るの恥ありなまじいに[#「なまじいに」は底本では「なまじいに」]生恥をかいて稻垣の苗字をたや
尋ねらるゝ共一かうおぼえ申さずと云ふべしなまじひに知顏しりがほなさば懸合かゝりあひとなりて甚だ面倒なりと能々申合ければ菊女も委細ゐさい承知しようちなし少しも案じ給ふ事なかれ何事もらずと申すべしとて夫れより夫婦支度を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
此の眼病では迚も刀の詮議も仇敵の所在ありかも知れよう道理はない、世に捨てられた私の身の上、なまじいに[#「なまじいに」は底本では「なまじいに」]生恥いきはじを掻くよりもいっその事一思いに割腹して相果てようか