おび)” の例文
職員室には、十人ばかりの男女をとこをんな——何れもきたな扮装みなりをした百姓達が、物におびえた様にキヨロ/\してゐる尋常科の新入生を、一人づゝ伴れて来てゐた。
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
京子の片手は何かにおびふるえて加奈子の膝の上に置かれた。加奈子はその手を見詰めて居るうちに、二十年前の二人の少女時代の或る場面を想い出した。
春:――二つの連作―― (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
何かに追ッたてられてるように山道をのぼりながら、激してくるとへこんだ眼がおびえたように光った。
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
たけつてつかねたやうに寸隙すんげきもなくむらがつて爪先つまさきられてはおびえにおびえた草木さうもくみなこゑはなつてくのである。さうしてもうかねばらぬ時間じかんせまつてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
何十万の陸軍、何万トンの海軍、幾万の警察力を擁する堂々たる明治政府を以てして、数うるほどもない、しかも手も足も出ぬ者どもに対するおびえようもはなはだしいではないか。
謀叛論(草稿) (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
君たちをおびやかした統さんの高笑いと、自慢の長い睫毛まつげとを思い出してくれたまえ。
二十歳のエチュード (新字新仮名) / 原口統三(著)
私はそのうち板の間に並んだ女中部屋からはげしい男の寝息のきこえて来るのに気が附くと云ふのです。二人の女中と一足の長靴と云ふことで私はしばらおびえさせられて居ると云ふのです。
遺書 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
男はへやの隅から鉄砲を持ちだすが早いか、銃身をはねかえして薬莢たま二個ふたつ挿しこんで、それから、射撃するために窓を開けようとしたが、ふと、子供が銃声におびえてはいけないと気づいたので
生さぬ児 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
「医者の申すには、一時いっとき物におびえたので、格別のこともないそうな」
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「何、抱ッこで寝るッ、若い奴等、気のわり談話はなしをしてるな。」と表の戸がらりと開け、乱髪の間より鬼の面をぬっと出すは、これ鉄蔵という人間の顔なり。これにおびえてかの女の児は遁出にげだしたり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
妹の声が次第におびえた調子に変って来た。
一足お先に (新字新仮名) / 夢野久作(著)
職員室には、十人許りの男女——何れも穢ない扮裝みなりをした百姓達が、物におびえた樣にキョロ/\してゐる尋常科の新入生を、一人づゝ伴れて來てゐた。
足跡 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
お蘭は、世の中の雑音には極めておびえ易く唯一人、自分だけ静な安らかな瞳を見せる野禽やきんのような四郎をいじらしく思った。彼女はこの人並でないものに何かといたわりの心を配ってやった。
みちのく (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
暗いおびえが身に迫る。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
お蘭は、世の中の雑音には極めておびやすただ一人、自分だけ静な安らかなひとみを見せる野禽のどりのような四郎をいじらしく思った。彼女かのじょはこの人並でないものに何かといたわりの心を配ってやった。
みちのく (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
常におび
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)