“怒濤(どたう)” の例文
吾等(われら)の叫聲(さけびごゑ)は忽(たちま)ち怒濤(どたう)の響(ひゞき)に打消(うちけ)されてしまつたが、只(たゞ)見(み)る、黒暗々(こくあん/\)たる遙(はる)か/\の沖(おき)に當(あた)つて、一點(いつてん)の燈光(とうくわう)ピカリ/\。
戦争中の狂乱怒濤(どたう)が、すつかりおさまりかへつて、波一つない卑屈なまでの平坦(へいたん)さが、ゆき子には喜劇のやうに思へた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
磐城の海岸の特徴を成した黄灰色の徙崖(しがい)が長く海中に突出して、怒濤(どたう)がこれに当つて砕けるさまは、あまり沢山にありふれた景色とは思はれなかつた。
旅から帰つて (新字旧仮名) / 田山花袋、田山録弥(著)
市場で買へば手取速(てつとりばや)く済むのに、気長に釣つてゐるところは、東洋国の風習とちつとも変りはない。何向き、市街の真中にかういふ河水の怒濤(どたう)を見るのは気味がいいのである。
イーサル川 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
偶(たま)には激浪(げきらう)怒濤(どたう)もあつて欲(ほ)しい、惡風(あくふう)暴雨(ぼうう)もあつて欲(ほ)しい、と云(い)つて我輩(わがはい)は決(けつ)して亂(らん)を好(この)むのではない、只(た)だ空氣(くうき)が五日(か)の風(かぜ)に由(よつ)て掃除(さうぢ)され、十日(か)の雨(あめ)に由(よつ)て淨(きよ)められんことを希(こひねが)ふのである。
建築の本義 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
無限の憤怒、怒濤(どたう)のかちどきの
詩 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
周章狼狽(あわてふためき)戸外(こぐわい)に飛出(とびだ)して見(み)ると、今迄(いまゝで)は北斗七星(ほくとしちせい)の爛々(らん/\)と輝(かゞや)いて居(を)つた空(そら)は、一面(いちめん)に墨(すみ)を流(なが)せる如(ごと)く、限(かぎ)りなき海洋(かいやう)の表面(ひやうめん)は怒濤(どたう)澎湃(ぼうはい)、水煙(すいえん)天(てん)に漲(みなぎ)つて居(を)る。
追(お)へども撃(う)てども敵(てき)も強者(さるもの)、再(ふたゝ)び寄(よ)する七隻(しちせき)の堅艦(けんかん)、怒濤(どたう)は逆卷(さかま)き、風(かぜ)荒(あ)れて、血汐(ちしほ)に染(そ)みたる海賊(かいぞく)の旗風(はたかぜ)いよ/\鋭(するど)く、猛(たけ)く、此(この)戰(たゝかひ)何時(いつ)果(は)つ可(べ)しとも覺(おぼ)えざりし時(とき)。