御納戸おなんど)” の例文
快い北東の季節風ムンスウンに吹かれ、御納戸おなんど色の絹をべた様な静平な海面を過ぎながら、十一月二十五日の朝蘭領のアノムバ島を左舷に見た。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
主水の父の伝内は番頭兼用人から勘定役頭取に役替になったが、御納戸おなんどの役は勤めかねると辞退すると、それであらためて御暇になった。
鈴木主水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
棒縞ぼうじま糸織いとおりの一枚小袖、御納戸おなんど博多の帯一本差し、尻端折しりはしょり雪駄ばきにて、白縮緬のさがりを見せ、腕組をしながら出て
両座の「山門」評 (新字旧仮名) / 三木竹二(著)
ズル/\ツと扱出こきだしたは御納戸おなんどだかむらさきだか色気いろけわからぬやうになつたふる胴巻どうまきやうなもの取出とりだしクツ/\とくとなかから反古紙ほごがみつつんだかたまりました。
黄金餅 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
このうちに出てくる色彩は三つの系統に属している。すなわち、第一に鼠色、第二に褐色系統の黄柄茶きがらちゃ媚茶こびちゃ、第三に青系統のこん御納戸おなんどとである。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
『困った熱病でござるの。法の尊厳を承知して犯したとならば、なお悪いわ。——とにかく火鉢など相成らん。御納戸おなんど! ここに出ておる火鉢は、元の御蔵おくらの内へ戻しておけ』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見ると先刻さっき主人が書斎へ放り込んだ古毛布ふるげっとである。唐桟とうざん半纏はんてんに、御納戸おなんど博多はかたの帯を尻の上にむすんで、生白なまじろすねひざから下むき出しのまま今や片足を挙げて畳の上へ入れる。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
文吉も取って置いた花色の単物に御納戸おなんど小倉の帯を締めて、十手早縄を懐中した。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「私は——牛込御納戸おなんど町の一しき道庵だうあんの伜綾之助あやのすけと申します」
無地の御納戸おなんど、うすいきぬ
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
此の日は筒井和泉守様は、無釼梅鉢けんなしうめばち定紋じょうもん付いたる御召おめし御納戸おなんどの小袖に、黒の肩衣かたぎぬを着け茶宇ちゃうの袴にて小刀しょうとうを帯し、シーという制止の声と共に御出座になりまして
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
其れに湖はだ凍らずに御納戸おなんど色をたゝへ、遊客いうかくの帰つて仕舞しまつた湖畔の別荘やホテルがいろいろに数奇すきを凝らした美しい建築を静かに湖水に映して居たのは目もめる心地がした。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
その次来た時には御納戸おなんどの結び目に、白いちょう刺繍ぬいとった襟飾えりかざりを、新聞紙にくるんだまま、もし御掛けなさるなら上げましょうと云って置いて行った。それを安野やすのが私に下さいと云って取って帰った。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「それはわからないが、——俺は明日の朝、御納戸おなんど町の河西源太といふ人の家へ行つて見ようと思ふ、お前は時次に逢つて見てくれないか。お松は一と晩位番所で窮命きうめいさせるもよからう、浮氣の虫封むしふうじになるぜ」
吉田さんは黒縮緬の羽織に対服ついふく御納戸おなんど縮緬の下着に、緋博多の帯を締めたんですが、此の上もない華美はで扮装こしらえでございます。其の時に千蔭先生は稻本いなもとのいなぎという名高い花魁を買って居りました。
正面には四階しがいとも御納戸おなんど色と白とで瀟洒あつさりとした模様が施してある。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
薄紫がかった御納戸おなんど縮緬ちりめんで、もんは蔦、すその模様は竹であった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「それはわからないが、——俺は明日の朝、御納戸おなんど町の河西源太という人の家へ行ってみようと思う、お前は時次に逢ってみてくれないか。お松は一と晩くらい番所で窮命きゅうめいさせるもよかろう、浮気の虫封じになるぜ」
「牛込御納戸おなんど町の河西源太殿」
「牛込御納戸おなんど町の河西源太殿」