御座ぎょざ)” の例文
と、たちどころに、御座ぎょざをめぐる人々の間から、ここを不安とする説が出た。余りに、山奥すぎて、糧道のなんすらあるというのである。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この寺に「御座ぎょざ」があって、そこへは政宗が、いかなる貴賓をも立入らしめなかったという由緒の一間がある。
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
御座ぎょざ近くまでほとんどどなりちらさんばかりの勢いで来るのは、愚楽老人、いつもの癖が出たとみえる。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
その横の壁にはチベットで最も上手な画師えしが描いた高尚ながあり、その正面にはチベット風の二畳の高台こうだい(法王の御座ぎょざ)があって、その横にまたチベットの厚い敷物がある。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
それはうるう二月の一日であったが、この日宮家には蔵王堂の御座ぎょざに、赤地の錦の鎧直垂よろいひたたれに、こくばかりの緋縅ひおどしの鎧——あさひの御鎧おんよろいをお召しになり、竜頭たつがしら御兜おんかぶとをいただかれ
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一天万乗ばんじょうの大君の、御座ぎょざかたわらにこの后がおわしましてこそ、日の本は天照大御神の末で、東海貴姫国とよばれ、八面玲瓏れいろう玉芙蓉峰ぎょくふようほうを持ち、桜咲く旭日あさひの煌く国とよぶにふさわしく
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
今日も親しくみかどに召されて「以後、山陰山陽十六ヵ国の事を管領せよ」との朝命を拝して御座ぎょざのあたりをさがって来たところだった。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だが、それらの猛者もさの家来どもを宮から遠くひき離すためにも、この御座ぎょざにも間近な鈴の間の大廊下が、あえて用いられたに相違なかった。
御座ぎょざのあたりは、談笑にわいていた。たれの声よりも後醍醐のお声が高い。ろうとして、おもての方へまであきらかにお声とわかるほどだった。
そしてうところの鈴の綱は、廊の隅柱すみばしらから校書殿きょうしょでんの後ろのほうへ張られてあり、主上の御座ぎょざ蔵人くろうどらを召されるときそれを引き、鈴が鳴る。
そして一月いらい、足利方の目をくらましては、都を出奔して、これへ集まってくる公卿たちも多く、御座ぎょざのあたりもいつとなく賑わっていた。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
紫宸ししん清涼せいりょう弘徽殿こきでんなどになぞらえられていた所の一切の御物ぎょぶつ——また昼の御座ぎょざの“日のふだ”、おん仏間の五大尊の御像みぞう
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「かりに一天の御座ぎょざにもあるべきお方が、ここらの浦へ一舟を寄せて、もし、頼むと仰せられたら、どうしましょうなあ」
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三位さんみ廉子やすこ准后じゅんごうづきの女房らが、そのたび御座ぎょざのおあかりに風ふせぎの工夫をしては、ともし直すが、つけると、またすぐ消されてしまう。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここ、あらゆる行事や行幸いでましも見あわせられて、夜の御殿みとのも、昼の御座ぎょざも、清涼殿せいりょうでんいったいは巨大な氷室ひむろことならなかった。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おそれながら、常々、深宮にのみ御座ぎょざあっては、陛下のご健康もいかがかと、臣らもひそかに案じられてなりません。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それがそのまま、帝の仮の御座ぎょざへ奏上される有様を胸にえがきながら、道誉もべつに秘かな満足を自己に感じている。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
正成をのこして、ついと謁見えっけん御座ぎょざをお立ちになってしまった御気色みけしきにみても、お腹立ちのほどは充分にうかがわれる。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼女が中殿へ伺った頃は、みかどはすでに、御餉みけ御座ぎょざについて、陪膳のお相手を待ち久しげにしておられた。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
侍者の行房と忠顕とは、御座ぎょざへぬかずいて、かねてお噂に入れた牢司ろうつかさの佐々木が、今日は見えておりますがと、念のため、もいちど叡慮にうかがってみた。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
本丸ふかくに御座ぎょざあるようにこしらえておくことだって不可能ではない。——やはり兄は兵法に不得手なのか。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ときおり船尻の幕が舞いあがると、帝の御座ぎょざからその男のすがたが見えた。また男のけわしい顔も、きまって、その無作法な眼でジロと帝の御気配ごけはいをねめすえているのであった。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わけて千種忠顕は早々に出仕しゅっしして、上卿の面々とともに中殿ちゅうでん御座ぎょざへまかり出ていた。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「笑うべきたわごとかな。汝ら乱賊の難を避けて帝おん自らこれへ龍駕りゅうがはしらせ給うによって、李傕御座ぎょざを守護してこれにあるのだ。——汝らなお、龍駕をおうて天子に弓をひくかっ」
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その間、帝は船底の御座ぎょざへ、いくどとなく行房を召されては、おたずねだった。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
父子対面の賀の御座ぎょざに向い合われると、御子のみかどには、父皇のおやつれが、すべて対幕府の御心労にあった果てと仰げて、いきどおろしく、うら哀しく、じんとお胸にせまるのだった。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「む。帝のおあとを慕うてまいる。そして幸いに、もし御座ぎょざに近づきうれば」
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
きみ、おんみずから、このんで、御落去あったこと。まずは天道てんどうのはからいと申すべきか。いずれにせよ、畿内きないあたりに御座ぎょざあろうが、あとは自然と叡慮のままにおまかせ申しておけばよい。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この国のうえに多くの思想や文化を輸入いれたもうた聖徳太子のこころを深く自己の心の根につちかっていた範宴は、そういう常々のおもいがいま御座ぎょざちかくすすむと共に全身をたかい感激にひたせて
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、ただ自失の色めきを、実城院の御座ぎょざに詰めあっているだけだった。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、ほどなく、御座ぎょざのあたりを退がった。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)