かく)” の例文
五間に十二間の長い一かくを遠巻きにして直接関係のない人々も群れていた。聚落むらから来た家族であり、街にすむ老幼男女であった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
「小泊瀬山」の「を」は接頭詞、泊瀬山、今の初瀬はせ町あたり一帯の山である。「石城いはき」は石で築いたかくで此処は墓のことである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
「あれに見えます、二の曲輪です——。あの一かくだけは、もうお味方に収めてございますゆえ、御安堵ごあんどあそばすようにと申しあげたのです」
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これからは田圃たんぼ——五六丁を隔ててその田圃の中に一かく、島原傾城町けいせいまちの歓楽のは赤く燃えております。
梓が上京して後東京の地において可懐なつかしいのは湯島であった。湯島もその見晴みはらしの鉄の欄干にって、升形の家が取囲んでいる天神下の一かくながめるのが最も多く可懐しかった。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一ばん貧しい人たちの住む一かくで、貧乏だと、つい、気持もとがれば、口もとがる。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
りょうたりかくたり、沖漠希夷たり、ようたりめいたり、妙明離微たり、はるかに迷悟凡聖の際を出でて、生死涅槃ねはんの域をこゆ。際を出ずるをもってのゆえに、よく迷悟に入り、よく凡聖に入る。
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
其処そこは、町すみの一かくではあったが、しかし全然別世界のように感じられた。
腐った蜉蝣 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
東海道金谷の宿はずれに、なまめかしい一かくがある。間口の狭い平べったい板屋造りで、店先にさまざまな屋号を染出した色暖簾いろのれんを掛け、紅白粉べにおしろいの濃い化粧をしたなまめかしい令嬢たちが並んでいる。
若殿女難記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
と、奥深き一叢ひとむらの疎林のうちになお一かくの兵舎があった。今しそこから慌てて南の門へ逃げ出してゆく一輛の四輪車がある。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
親しみ深く、しかも厳粛な一かくであった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
堀の水が、忽然こつねんと、赤く見え出した。仰ぐと、川向うの空も赤い。一かくの町屋の上には、柏餅のような晩春の月があった。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがて、佐和山城中の一かく退がって、父子一室にくつろいでから、この気持をありのまま、父にいってみると、藤孝は、さもあろうといわぬばかりに
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、陽気にしてしまう清盛が、わけてもこの頃はご機嫌なのであるから、六波羅一かくのことしの正月こそは、まことに、初春はるらしい陽気にちあふれていた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
十里城外は、戦乱の巷というのに、ここの一かくは静かな秋の陽にみち、芙蓉の花に、雲は麗しく、木犀もくせいのにおいを慕って、小さい秋蝶が低く舞ってゆく。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
といえば、今川家では、侮蔑ぶべつまとであったから、彼女の気位きぐらいは、築山の一かくに住んでからも、三河者の家来をいやしみ、良人にはわがままと盲愛でのみ接していた。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
盧俊儀のかつての店舗てんぽと住居の一かくは、あれよというまもなくぶちこわされ、番頭の李固りこと、の妻の賈氏こしは、逃げも隠れもできないうちに、どこへとも拉致らちされて行った。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
で、今度はこの一かくの、ほかの墨屋敷を訪れて尋ね廻った。ところが、誰の答えも一致して
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして一の曲輪と三の曲輪との中間に見える一かくは——あの二の曲輪は、俗に京極曲輪きょうごくぐるわとよび、そこは老職の浅井玄蕃あさいげんば、三田村右衛門大夫、大野木土佐おおのぎとさの三臣が固めておるのです。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
母と妻をともなって、北曲輪きたぐるわの一かくに新たに造った住居を秀吉は見せてあるいた。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かくは外の曲輪くるわをいい、塁は各部の囲いをいい、さいはその中心全体をいう。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この辺には、古いとりであとを中心に、一かくの武家町がある。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
山曲輪やまぐるわの一かく評定場ひょうじょうばとびらはかたくとざされた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)