ほとん)” の例文
地は隈無く箒目の波を描きて、まだらはなびらの白く散れる上に林樾こずえを洩るゝ日影濃く淡くあやをなしたる、ほとんど友禅模様の巧みを尽して
巣鴨菊 (新字旧仮名) / 正岡容(著)
色を失へる貫一はその堪へかぬる驚愕おどろきに駆れて、たちまち身をひるがへして其方そなたを見向かんとせしが、ほとんど同時に又枕して、つひに動かず。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
つまはおみつつて、今歳ことし二十になる。なにかとふものゝ、綺緻きりやうまづ不足ふそくのないはうで、からだ発育はついく申分まをしぶんなく、どうや四釣合つりあひほとん理想りさうちかい。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
抽斎は人の寸長すんちょうをも見逭みのがさずに、これに保護ほうごを加えて、ほとんどその瑕疵かしを忘れたるが如くであった。年来森枳園きえん扶掖ふえきしているのもこれがためである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ひとり千仞ハ藩論反覆ノ日ニ当ツテ挺然ていぜんトシテ正義ヲ持シ一時コレガタメニ獄ニ下リほとんド死セントス。アヽ千仞ノ如クニシテしこうシテ後始テ書生ノ面目ヲ失ハザルモノトイフベシ。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
勿論この二の川はおおきさも水量もほとんど伯仲の間にあって、孰れを本流とするも差支ないようであるが、長さからいえば楢俣の方が優っているから、之を本流と認めてよいであろう。
利根川水源地の山々 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
鄒公すうこうきん十八人、殿前におい李景隆りけいりゅうってほとんど死せしむるに至りしも、また益無きのみ。帝、金川門きんせんもんまもりを失いしを知りて、天を仰いで長吁ちょうくし、東西に走りまどいて、自殺せんとしたもう。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
彼はほとんどこの女の宮ならざるをも忘れて、その七年の憂憤を、今夜の今にして始て少頃しばらく破除はじよするのいとまを得つ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
半空なかそらより一文字に垂下すいかして、岌々きゆうきゆうたるそのいきほひほとんながむるまなことまらず。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)