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平常
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へいじやう
此日も
宗助は
兎も
角もと
思つて
電車へ
乘つた。
所が
日曜の
好天氣にも
拘らず、
平常よりは
乘客が
少ないので
例になく
乘心地が
好かつた。
此時、
前に
端艇を
指揮して、
吾等兩人を
救ひ
上げて
呉れた、
勇ましき
虎髯大尉は、
武村兵曹も
私も
漸く
平常に
復した
顏色を
見て、ツト
身を
進めた、
微笑を
浮べながら
宗助はそれから
懷手をして、
玄關だの
門の
邊を
能く
見廻つたが、
何處にも
平常と
異なる
點は
認められなかつた。
翌朝になつて
見ると、
海潮は
殆ど
平常に
復したが、
見渡す
限り、
海岸は、
濁浪怒濤の
爲に
荒されて、
昨日美はしく
飾立てゝあつた
砂上の
清正の
人形も、
二見ヶ
浦の
模形も、
椰子林の
陣屋も
何も
知らない
御米は
又平常の
通り
無邪氣に
夫から
夫へと
聞きたがつた。