いぶ)” の例文
なにとぞそこよりお落ちあそばしませ! ただし御跡おんあとに残りとどまって戦う兵なくば、敵いぶかしみ、御後おんあと追いかけ申すべし。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
じつ前後ぜんご形勢けいせいと、かの七せきふね有樣ありさまとでると、いま海蛇丸かいだまるあきらか何事なにごとをかわが軍艦ぐんかんむかつて信號しんがうこゝろみるつもりだらう。けれどわたくしいぶかつた。
「それで」伸子は多少夫の様子をいぶかりながら云った。「その罠にかかる人がつまり不幸と云う訳なんですわね」
罠に掛った人 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
その人は黒い烏帽子を前かがみに、私たちの前に、やや斜めにひざまずいて、いぶかしげに、また親しそうに此方こちらを見た。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
蝦蟇法師はためつすがめつ、さもいぶかしげに鼻を傾けお通がせるわざながめたるが、おかしげなる声を発し、「それは」と美人の手にしたる鏡を指して尋ねたり。
妖僧記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ふじは眠っていたらしい、彼が側へ寄ると眼をさまし、いぶかしそうにまばたきをした。
醜聞 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
と、そういう娘のようすが、公卿にはいよいよいぶかしくも、疑わしくも思われたらしい、胸と胸とが合わさるばかりに、近々と娘へ近づいたが
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
『あら、海軍かいぐん叔父おぢさんは、あのいわうしろかくれておしまいになつてよ。』と、日出雄少年ひでをせうねんいぶかしわたくしながめた。
これはいぶかしいと存じまして、後をつけ様子を見ましたところ、何んとその中に紀州の藩士、ご存知の加藤源兵衛や、霜降小平などがおりましてござる。
猫の蚤とり武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ひゞきはるかの海上かいじやうあたつて、きはめてかすかに——じついぶかしきまでかすかではあるが、たしかにほうまた爆裂ばくれつ發火はつくは信號しんがうひゞき
二、三度武者之助の手下らしい人相の悪い男達が、垣の外から家の中を、いぶかしそうにうかがったが武者之助の合図がないからか、そのつどコソコソと隠れ去った。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
武兵衛の姿を見るといぶかしそうな顔付きをして物問いたげに修験者の方へわしのような眼をツト走らせた。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「そうさな」と意次もいぶかしそうに、「宴の席には姿なかった。……誰だろう、わしには解らぬ」
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
弾正太夫はいぶかしそうに、オースチン師の顔を見た。その眉はかすかにひそんでみえる。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「不覚を取ると知りながら、尚その方参ると云うか」いぶかしそうに頼正は訊く。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その素振りに鷲っ鼻の武士は、何やらいぶかしさを感じたらしかった。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
熊はいかにもいぶかしそうに、少し離れた小丘の上から、主人たちの方を見詰めてい、五尺以上もある白猩々しろしょうじょうは、人間と変らぬ老獪ろうかいさで、桂子や浮藻に可愛がられていたが、栗の木のまたに駈け上がり
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
いぶかしそうに眼を見張って、お浦は上様の人形を見詰めた。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ここで梶子は民弥の顔を、いぶかしそうにジロリと見た。
猫の蚤とり武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
いぶかる家人を尻目に掛け、葉之助は宿を出た。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
見ていぶかしそうに云ったものである。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と太郎丸、いぶかしそうに打ち案じた。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
いぶかしそうに忠清は訊いた……。
赤格子九郎右衛門 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)