奇瑞きずい)” の例文
それからその木を両幡ふたはたの椋の木と名をつけた。年を経て傾き古くなったけれど、この椋の木は異香が常に薫じ、奇瑞きずいが絶ゆることがない。
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
師匠は特にそういう風に作られたのですが、素人しろうとにはそういうことは分らないから、奇瑞きずいのようにも思われてよろこんだのでありました。
今朝こんちょうのご参詣のあと、わがおやかたには、ふしぎな奇瑞きずいにお会いなされた。あまりのありがたさゆえ、それを皆へも告げ知らせる。まずは次の一ぶんを聞け」
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大分大仰おおぎょううわさが伝わって、末世と雖も誠の志があれば奇瑞きずいが現れるのであると、一時はえらい評判になった。
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
一品いっぽんみやの御病気は、あの弟子僧の自慢どおりに僧都の修法によって、目に見えるほどの奇瑞きずいがあって御恢復かいふくになったため、いよいよこの僧都に尊敬が集まった。
源氏物語:55 手習 (新字新仮名) / 紫式部(著)
人は見て奇瑞きずいとするが、魔が咲かせたかも知れないんです。反対に、お誓さんが故郷へ帰った、その瑞兆ずいちょうあらわれたとして、しかも家の骨に地蔵尊を祭る奇特がある。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかも佐竹家が率先してつとにこれを崇敬すうけいした動機は、すぐれて神通力という中にも、特に早道はやみち早飛脚はやびきゃくで、しばしば江戸と領地との間に吉凶を報じた奇瑞きずいからであった。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
第一は備中びっちゅうかま鳴り、第二は備前の田植え、第三は美作みまさかの夜桜にして、この三者はおのおのその国の一の宮にある奇瑞きずいといわれている。夜桜は、一夜のうちに自然に桜が開くのである。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
「何しろあんなに美しいんだから、それ位の奇瑞きずいがあったって不思議はねえ」
「それでも都の噂では、奇瑞きずいがあったとか申していますが。」
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
董卓が殺されてからは、天の奇瑞きずいか、自然の暗合か、数日の黒霧も明らかにれ、風はんで地はなごやかな光にち、久しぶりに昭々たる太陽を仰いだ。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
前代の英雄や偉人の生い立ちに関しては、いかなる奇瑞きずいでも承認しておりながら、ことひとたび各自の家の生活に交渉するときは、寸毫すんごうも異常を容赦することができなかった。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
六十四の時往生したが、臨終の時は奇瑞きずいがあったということが、日本往生伝に記されている。
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「畜生ッ、何んの奇瑞きずいも現わさないのか」
はからずも、東平、東昌の二府を討って、幾人もの人傑を新たに迎え、また、稀代な神馬が二頭も手に入るなど、まことに天の冥助みょうじょ奇瑞きずいとしか思われん。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
法然の最期の前後にその門徒の人々が様々な夢を見たり、奇瑞きずいを見たりしたことがある。
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その上に多くの奇瑞きずいには、もう少し共通の誘因があった。黙って私が石の祠の戸を開き、又は土中の光る物を拾い上げて、独りで感動したような場合ばかりではなかったのである。
幻覚の実験 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
名作に奇瑞きずいは昔から付き物だ——と。
踊る美人像 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
奇瑞きずいだ、奇蹟だ、とこの話は伝記の書に伝えられている。偉人高僧の誕生伝記と同巧異曲なものである。
田崎草雲とその子 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すなわち神隠しの青年は口が喋々ちょうちょう奇瑞きずいを説かなかったかわりに、我々の説明しえないいろいろの不思議が現われ、それを見たほどの者は一人として疑い怪しむことができなかった。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「あの天狗山伏は、不動の化身であったのであろ」「触れ不動だ!」「触れ不動の奇瑞きずいであった」と、みな信じて疑わなかったと「参考太平記」までが伝えている。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
などという文句がつらねられているのを見ると、かつて稲作の豊熟をもって、いわゆる弥勒出世しゅっせの第一の奇瑞きずいと解し、米を祭場にきちらすことによって、その絶大の歓喜を表示しようとした時代が
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
それから——母の吉光きっこう御前が、なみならぬご信仰であったせいか、御入胎ごじゅたいのまえに、如意輪観世音にょいりんかんぜおんのお夢をみられたり、そのほかにも、いろいろな奇瑞きずいがあったということ。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ふたりも密かに申しておりまする。途中では何かの奇瑞きずいがあるにちがいない。一天の君のこのような有様を見て、ただ一人の義人も現われ出ぬはずはない。かならずお救いを
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そも、何の菩薩ぼさつ御化身ごけしんか」と、ふたりは、後になってまで、解けないことのように首ばかりかたげていたが、有範は、それはなんらの奇瑞きずいでもふしぎでもないといった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
道士一同はひょうとして去り、翌日、宋江は軍師呉用や朱武たちとはかって、忠義堂の扁額へんがくのほかに、こんどの一奇瑞きずいを記念して「断金亭だんきんてい」という大きな額をかかげることにした。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すべておさは、澄んだ水でござる。それを、奇瑞きずいの、奇童のと、見るのはすでにわれら凡俗の眼があやまっている。——あらゆる童心はすべて仏性ぶっしょうでござろうぞよ、おわかりか
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
華歆かきん、李伏の徒は、その後ものべつ参内して麒麟きりん鳳凰ほうおう奇瑞きずいを説いたり、また
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、孫策がいったとおり、光武帝の神霊が、早くも奇瑞きずいをあらわして味方したもうかと思われたが、それは彼の幕将周瑜しゅうゆが、孫策の帰りがおそいので、手兵五百をひきいてさがしに来たものだった。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、大いにその偶然を奇瑞きずいとしてうたったことであったにちがいない。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「……ああら、ああら、ふしぎや、奇瑞きずいやな」
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
思えば、実に奇瑞きずいの多い玉璽ではあります
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)