回向ゑかう)” の例文
「その代り遺骸なきがらは此方で引取り、回向ゑかう萬端手落なく致させます——てやがる。お貰ひの仲間にも、坊主も穴掘りも居るんだつてネ、親分」
今夜こよひは満願とてかの橋にもいたり殊更ことさらにつとめて回向ゑかうをなし鉦うちならして念仏ねんぶつしけるに、皎々けう/\たる月遽然にはかくもりて朦朧まうろうたり。
今日は御葬り下され御回向ゑかうあづかりしことの有難く御かげにて未來みらいを助かりますによりはゞかりながら是より其報恩はうおんに御前樣の蔭身かげみに添て何卒御立身出世りつしんしゆつせ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
回向ゑかうするやうな持主の目は種牛から離れなかつた。種牛は最早もう足さへも切離された。牧場の草踏散らした双叉ふたまたつめも、今は小屋から土間の方へ投出はふりだされた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
すると、近頃阿母おつかさんが亡くなつたので、教授は一七回向ゑかうを済ますと、直ぐ封を解きにかゝつた。
専念回向ゑかうするところ、瞑目静思する処ろ、殆数個の人あるが如き観あるもの、何ぞや。
心機妙変を論ず (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
所詮しよせん此の経を一〇一魔道に回向ゑかうして、恨をはるかさんと、一すぢにおもひ定めて、ゆびやぶり血をもて願文ぐわんもんをうつし、経とともに一〇二志戸しとの海にしづめてし後は、人にもまみえず深くぢこもりて
これにて回向ゑかうの塔を組む
中には若い女が二人と中年の女が一人、まだ入棺も濟まぬ若殿金之進の死骸を挾んで、愚痴やら回向ゑかうやら、果しない悲歎に暮れてゐる樣子でした。
さるをおんそうしば/\こゝにきたりて回向ゑかうありつる功徳くどくによりてありがたき仏果ぶつくわをばえたれども、かしら黒髪くろかみさはりとなりて閻浮えんぶまよふあさましさよ。
賣代うりしろなし其金をもち藤八樣へ相談申て何方なりと再び縁をもとめよや其後自然しぜん我事を思ひ出せし日もあらば只一ぺん回向ゑかうをと云ばお節はうらめしげに九助のかほ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
媼さんは亡くなつた爺さんの回向ゑかうが頼みたかつたのだ。俳諧師はてんで経文を知らなかつたので、ひどく当惑したらしかつたが、ふと気づいたのは懐中ふところの七部集であつた。
我が家に江戸にたとせたるぼくあり。かれがかたりしに、江戸に寒念仏かんねんぶつとて寒行かんぎやうをする道心者だうしんじやあり、寒三十日をかぎりて毎夜鈴が森千ぢゆにいたり刑死けいし回向ゑかうをなす。
手向たむけ候者一人も是なししか拙僧せつそう宗旨しうしの儀は親鸞上人しんらんしやうにんよりの申つたへにて無縁むえんに相成候つかへはめい日には自坊じばうより香花かうげ手向たむけ佛前ぶつぜんに於て回向ゑかう仕つり候なりと元より墓標はかじるしなき
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)