呆然ばうぜん)” の例文
つぎも、してるべしで、珍什ちんじふ奇器ききほとん人界じんかいのものにあらず、一同いちどう呆然ばうぜんとして、くちくものあることなし。
画の裡 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
彼は呆然ばうぜんとそこに立つて居たが、舌打をして、その杖をみぞのなかへたたきつけると、すたすたと家へ這入つて行つた。犬は二疋とも床下深く身をかくして居た。
五位は、寝起きの眼をこすりながら、殆ど周章に近い驚愕きやうがくに襲はれて、呆然ばうぜんと、周囲を見廻した。
芋粥 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
たゞ呆然ばうぜんとして、凄まじい四方の樣子と、突き詰めた人々の顏を眺めてをりましたが、暫らくするとワツと父の死骸の上に、折り重なつて、泣き倒れてしまつたのです。
しかし彼女が返濟すべき前借の高を知つたとき、彼女は呆然ばうぜんとしてしまつた。せいぜい五十圓前後と思つてゐたのに、いつの間にか三百五十圓ほどになつてゐたからである。
天国の記録 (旧字旧仮名) / 下村千秋(著)
折角の赤筋入りたるズボンをあたらだいなしにして呆然ばうぜんとしたまひし此方には、くだん清人しんじんしき事しつと云ひ顔にあわてゝ床のうへなるものをさじもてすくひて皿にかへされたるなど
燕尾服着初めの記 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
万作は呆然ばうぜんとして黙つてゐると、一人の賢さうな男が出て来てかう申しました。
蚊帳の釣手 (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
けれども、或る夜は發作ほつさあへぎ迫る胸をおさへながら、私は口惜くやしさに涙ぐんだ。る日は書きつかへて机のまはりにむなしくたまつた原稿紙のくづを見詰めながら、深い疲れに呆然ばうぜんとなつてゐた。
処女作の思い出 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
礼助は豹変へうへんした兄を呆然ばうぜん目守まもつた。
曠日 (新字旧仮名) / 佐佐木茂索(著)
しアレヨ/\と呼はりける其間に靱負ははるおきの方へ行し樣子なれども星明ほしあかりゆゑ今は定かに見え分ず主は漸々やう/\波打際なみうちぎははせ來りてすかし見れば早靱負が姿すがたかげもなく末白波あとしらなみとなり行しは不思議ふしぎと云ふも餘りありと暫時しばし呆然ばうぜん海原うなばらに立たりしが何時いつ迄斯て居るとも更に其甲斐かひなければ詮方せんかたつきて立歸りしが如何にも不思議ははれざりしとぞ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
彼は呆然ばうぜんと路の上に立つて、その人影を確めようと眼をみはつた。人影は、路から野面の方へ田のあぜをでも伝ふらしく、石地蔵のあたりから折れ曲つた。さうして!
一瞬、寶屋の上下は、さわぎの坩堝るつぼに叩き込まれました。下女のお作の悲鳴に驚いて飛んで來た人達も、あまりのことに、何をどうして宜いかわからず、唯呆然ばうぜんとして顏を見合せるばかり。
たましひの拔けたやうに、呆然ばうぜんとしてゐる貫兵衞をうながし、か弱い乍ら、一番氣のたしかなおつたを手傳はせて、卯八一人の大働きで、水船から引上げた人間は五人、船頭の三吉と、野幇間のだいこ巴屋ともゑや七平は