剛情ごうじょう)” の例文
すると、あくまで剛情ごうじょううまきゅうあばして、こうの百しょうをそこに蹴倒けたおして、手綱たづなって、往来おうらいしたのでした。
駄馬と百姓 (新字新仮名) / 小川未明(著)
賢造はとうとうにがい顔をして、ほうり出すようにこう云った。洋一も姉の剛情ごうじょうなのが、さすがに少し面憎つらにくくもなった。
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
親達が失望して情ながるかおは手紙の上に浮いて見えるけれど、こうなると妙に剛情ごうじょうになって、因襲の陋見ろうけんとらわれている年寄の白髪頭しらがあたまを冷笑していた。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
第一剛情ごうじょうで、負けず嫌ひの癖に、別れた男に未練があるの、リヽーが可愛くなつたのと、しをらしいことを云ふのが怪しい。彼奴あいつが何でリヽーを可愛がるものか。
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
少し下脹しもぶくれの可愛らしい顔が涙に濡れて、あかい唇のワナワナとふるういじらしさは、どんな剛情ごうじょうな平次も、折れるだろうと思われましたが、頑固に眼を閉じた平次は
剛情ごうじょうなKの事ですから、容易に私のいう事などは聞くまいと、かねて予期していたのですが、実際いい出して見ると、思ったよりも説き落すのに骨が折れたので弱りました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「こらっ、どうしてもかえりましぇんか。日本人剛情ごうじょうでしゅ、私、腕をふりあげます」
人造人間エフ氏 (新字新仮名) / 海野十三(著)
仲間にも、しきりと止められた利平であったが、剛情ごうじょうな彼はかなかった。たかが多勢をたのんで、時のハズみでする暴行だ。命をとられる程のこともあるまいと思った彼であった。
(新字新仮名) / 徳永直(著)
だが私は小さい時から、どんなに打たれても打たれても全くは打ちのめされない剛情ごうじょうな子であったのに違いない。だからこうした時にもなお一つの楽しい世界を持つことができた。
そらおそろしくおもうのであったが、また剛情ごうじょう我慢がまんなるその良心りょうしんは、とはみずからはいまだかつて疼痛とうつうかんがえにだにもらぬのであった、しからば自分じぶんわるいのではいのであるとささやいて
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
と自分の思わくとお浪の思わくとのちがっているのを悲む色をおもてに現しつつ、正直にしかも剛情ごうじょうに云った。その面貌かおつきはまるで小児こどもらしいところの無い、大人おとなびきったびきったものであった。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
此文字が何よりの証拠だからの様な悪人でも剛情ごうじょうは張り得まい
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
が、私はミスラ君に約束した手前もありますから、どうしても暖炉に抛りこむと、剛情ごうじょうに友人たちと争いました。
魔術 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
この剛情ごうじょうなところが、——Kは学年中で帰れないのだから仕方がないといいましたけれども、向うから見れば剛情でしょう。そこが事態をますます険悪にしたようにも見えました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「お前はどこまで剛情ごうじょうなんだろう。そんなに拷問されたいのか。それでは」
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
代官だいかんは天主のおん教は勿論、釈迦しゃかの教も知らなかったから、なぜ彼等が剛情ごうじょうを張るのかさっぱり理解が出来なかった。時には三人が三人とも、気違いではないかと思う事もあった。
おぎん (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
宗助は剛情ごうじょうかぬ気の腕白小僧としての小六をいまだに記憶している。その時分は父も生きていたし、うちの都合も悪くはなかったので、抱車夫かかえしゃふを邸内の長屋に住まわして、楽に暮していた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「お前は、剛情ごうじょうだな」とトラ十はいって、こんどは房枝の方に向き
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
のみならず頭がふらついて来ても、剛情ごうじょうに相手へしがみついていた。
百合 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「さあ、それが判然しない。君も知っている通り死体検索から死期が推定されるが、二十分や三十分のところは、どうもハッキリしないのでネ。……とにかく大江山君もウララ夫人の剛情ごうじょうなのには参ったといってこぼしているよ」
人造人間事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
が、やはり押し黙ったまま、剛情ごうじょうに敷瓦を見つめていた。
将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)