似非えせ)” の例文
「いや、それはいずれまた聴くとして」とあわてて検事は、似非えせ史家法水の長広舌ちょうこうぜつを遮ったが、依然半信半疑のていで相手をみつめている。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
それを金助の説として聞かないで、その当時の似非えせ文化者流の言葉として聞いて神尾が、冷笑悪罵となったのを、金公少々ムキになって
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
つまり恋愛小説を読むとか、似非えせ風流にふけるとか、女学生の口真似くちまねをすれば我が理想を高潔神聖にするとかいう位なものです。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「そうだろうともそうだろうとも。美しいと思ったのは、すなわち恋した事だからね。そうでないという奴は似非えせ道徳屋……」
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
いつか、無一物などといったのは、絶無の頭脳あたまを——真から空ッぽの頭脳を、さも何かありそうに見せかける坊主常習の似非えせのことばなのだ。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わが似非えせ道学者等は自由恋愛が婦人の胸中に喚び覚した小児に対する深い義務の観念を学ばなければならない。
結婚と恋愛 (新字旧仮名) / エマ・ゴールドマン(著)
我は時後れてユーリオの世に生れ、似非えせ虚僞いつはりの神々の昔、善きアウグストのもとにローマに住めり 七〇—七二
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
はて、彼処あすこをさように魔所あつかい、おばけあつかいにされましてはじゃ、この似非えせ坊主、白蔵主はくぞうすではなけれども、尻尾が出そうで、くすぐっとうてならんですわ。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
似非えせ学者、似非作家、似非インテリゲンツィアの恥知らずな戦争協力にたいして、声に出せない眼をきつく働かして、それに反撥し、それを非難していた人々も
そういう窟屋いわやに住んで居りながら金を沢山拵えることを考えて、己れは隠者という名義をもって財産を集めるところの手段にして居る似非えせ坊主が沢山あるものですから
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
そういう人たちは保守主義者の中にもあれば、似非えせ進歩主義者の中にもあるかと思います。
「女らしさ」とは何か (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
父の半狂亂に氣を揉みながらも、母の目論見の底を割り兼ねて、默つてしばらく樣子を見てゐるうちに、多の市は似非えせ修驗者の道尊坊を頼んで來て、大袈裟おほげさ祈祷きたうを始めました。
しかし似非えせの年上の女性が若き燕の男性に求めるようなみだりがましいことは少しも無いので、やはり先生は神聖であって、先生の言うことがもっとものようにも葛岡には思えた。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
これには儒教(孔子の説に非ず)の影響が多分に底流[※2]になっていることと思うが、英米の所謂ブルジョアジイの似非えせ偽善的な紳士道徳の影響もかなり混っていることであろう。
錯覚した小宇宙 (新字新仮名) / 辻潤(著)
似非えせ小説家の人生を卑しみて己れの卑陋なる理想の中に縮少したる毒弊なり、恋愛あに単純なる思慕ならんや、想世界と実世界との争戦より想世界の敗将をして立籠らしむる牙城となるは
厭世詩家と女性 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
しらわらひ、——似非えせ方人かたうど
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
「あわれむべし大月玄蕃! 不憫や魔道に落ちて救われざる似非えせ剣客、それ程までに致しても命が欲しいとはよくよくな奴」
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小山君、君も知っている通り僕は平生風流亡国論を唱えて日本人の似非えせ風流は亡国のもといと主張するが玉子の話についてもいよいよその事をおもい起すね。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
芋を石にする似非えせ大師、むか腹を立って、洗濯もの黒くなれと、真黒まっくろ呪詛のろって出た!……
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
父の半狂乱に気を揉みながらも、母の目論見もくろみの底を割り兼ねて、黙ってしばらく様子を見ているうちに、多の市は似非えせ修験者の道尊坊を頼んで来て、大袈裟おおげさ祈祷きとうを始めました。
何か趣向をしておいて、アッと言わせるということは、似非えせ茶人や似非通人のよくやりたがることであります。神尾は人を招いた時は、いつでも何かこんなことをしたがるのでありました。
似非えせ愛国者の売国的意味をしんから知るには時間がかかる。
「武蔵! ……れは、似非えせ善人じゃの。そのような甘い言葉にたぶらかされて、怨みを解くようなわしではないぞ。……無駄なこと、耳うるさいわい」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
似非えせ風流は亡国のもとい、似非美文は子弟教育の害になるという。しかしそれは今ここで説明する場合でないが食卓に花を飾るのは食事の愉快を増さしむるためだ。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「いや、聞えたってかまわん。あの似非えせ君子が、起きるか起きないか、試しに、この家へ火をつけてみるんだ」
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
第五十九 似非えせ風流
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
ああ黄蓋こうがいも人を知らずじゃ! こんな似非えせ英雄に渇仰かつごうして、とんでもないことをしてしまったものだ
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
由来、この武松の性分として、軍権をカサにきる似非えせ軍人、なんでも腕ずく力ずくで非道を押ッ通そうとする手輩てあい、そんな奴を見ると、ぐっと虫がかんをおこしてきてたまらなくなる
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それがしどもの思うには、孔明はいたずらに虚名を売り、実は内容のない似非えせ学徒に相違なく、それ故、わが君に会うのをおそれ、とやかく、逃げのがれているものかと存じられます。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
心の狭い一部の納言なごん沙門しゃもんたちが、そのあとになって、青蓮院の僧正こそは、世をあざむく似非えせ法師じゃ、なぜなれば、なるほど、松を時雨しぐれの歌は、秀逸にはちがいないが、恋はおろか
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「くそ坊主っ、似非えせ坊主の沢庵。一言いうことがある。この下へ参れっ——」
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すなわち、おへんは武門から出家し、卯木うつぎどのは、女院の内の栄花えいがめかした似非えせ幸福から出家なされたものではあるまいかの。いうなれば、弥陀みだをたのむ発心ほっしんも出家。恋の彼岸を本願とするも出家。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「道誉っ。いやさ、似非えせ入道」
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)