人膚ひとはだ)” の例文
衣摺きぬずれが、さらりとした時、湯どのできいた人膚ひとはだまがうとめきがかおって、少し斜めに居返いがえると、煙草たばこを含んだ。吸い口が白く、艶々つやつや煙管きせるが黒い。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
朝日はかくて濡縁ぬれえんの端に及び、たちまちのうちにその全面に射し込んで来て、幾年の風雨にらされて朽ちかかった縁板も、やがて人膚ひとはだぐらいのぬくみを帯びるようになる。
恐怖おそれと、恥羞はじに震う身は、人膚ひとはだあたたかさ、唇の燃ゆるさえ、清く涼しい月の前の母君の有様に、なつかしさが劣らずなって、振切りもせず、また猶予ためらう。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
途端に人膚ひとはだ気勢けはいがしたので、咽喉のどかまれたらうと思つたが、うではなく、蝋燭が、敷蒲団しきぶとんの端と端、お辻と並んで合せ目の、たたみの上に置いてあつた。
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ばちゃん、……ちゃぶりとかすかに湯が動く。とまた得ならずえんな、しかし冷たい、そして、におやかな、霧に白粉おしろいを包んだような、人膚ひとはだの気がすッと肩にまつわって、うなじでた。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
貴下あなた、このまあうららかな、樹も、草も、血があればくんでしょう。しゅの色した日の光にほかほかと、土も人膚ひとはだのようにあたたこうござんす。竹があっても暗くなく、花に陰もありません。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
けてながめうとおもはなを、つとのまゝへやかせていて、待搆まちかまへたつくなひのかれなんぢや! つんぼの、をうしの、明盲人あきめくらの、鮫膚さめはだこしたぬ、針線はりがねのやうな縮毛ちゞれつけ人膚ひとはだ留木とめきかをりかはりに
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さ、さ、とお絹の褄捌つまさばきが床を抜ける冷たい夜風に聞えるまで、闃然げきぜんとして、袖に褄に散る人膚ひとはだの花の香に、穴のような真暗闇まっくらやみから、いかめの鬼が出はしまいか——私は胸をめたのです。
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
人膚ひとはだ背後うしろから皮をとおして透いて見えます位、急にも流れず、よどみもしませず、なみの立つ、瀬というものもござりませぬから、色も、あおくも見えず、白くも見えず、緑のふちにもなりませず、一様に
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)