亀井戸かめいど)” の例文
国貞はここから大川橋へ廻って亀井戸かめいど住居すまいまで駕籠かごを雇い、また鶴屋は両国橋りょうごくばしまで船をぎ戻して通油町とおりあぶらちょうの店へ帰る事にした。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
亀井戸かめいど金糸堀きんしぼりのあたりから木下川辺きねがわへんへかけて、水田と立木と茅屋ぼうおくとが趣をなしているぐあいは武蔵野の一領分いちりょうぶんである。ことに富士でわかる。
武蔵野 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
お母様は、「それで思い出しました。亀井戸かめいどの葛餅屋は暖簾のれんに川崎屋と染めてありました。柔いからお祖母ばあ様も召上れ。」
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
そう考えて来ると、第一この男がまるうち仲通なかどおりを歩いていて、しかもそこで亀井戸かめいどへの道を聞くということが少し解しにくいことに思われて来る。
蒸発皿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
エイと左の肩より胸元へ切付きりつけましたから、はすに三つに切られて何だか亀井戸かめいど葛餅くずもちのように成ってしまいました。
但し、松崎は、男女なんにょ、その二人の道ずれでも何でもない。当日ただ一人で、亀井戸かめいどもうでた帰途かえりであった。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
僕は早速さっそく彼と一しょに亀井戸かめいどに近い場末ばすえの町へ行った。彼の妹の縁づいた先は存外ぞんがい見つけるのにひまどらなかった。それは床屋とこやの裏になった棟割むねわ長屋ながやの一軒だった。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
千住せんじゅ辺へ出かけた時とか、または堀切ほりきり菖蒲しょうぶ亀井戸かめいどふじなどを見て、彼女が幼時を過ごしたという江東方面を、ぶらぶら歩いたついでに、彼女の家へ立ち寄ったこともあり
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
捕物の名人銭形の平次と、その子分の八五郎、野暮用で亀井戸かめいどへ行った帰り、東両国ひがしりょうごくの見世物小屋へ入ったのは、初夏の陽も、ようやく蔭を作りかけた申刻ななつ(四時)近い刻限でした。
亀井戸かめいど——私はまだ行ったことはないが、写真で見ると——のように、竹や丸太棒の棚作りにしては、横から見ても仰のいても、花の美しさは完全に利用されてるとは思われない
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
注文によってはこれも何んでも彫る。どんなつまらないものでも彫る。そこで、洋傘のを彫る。張子はりこの型を彫る(これは亀井戸かめいどの天神などにある張子の虎などの型を頼みに来れば彫るのです)
この藤は早く咲きたり亀井戸かめいどの藤咲かまくは十日まり後
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
それから根岸ねぎし御行おぎょうの松、亀井戸かめいど御腰掛おこしかけの松、麻布あざぶには一本松、八景坂はっけいざかにも鎧掛よろいかけの松とか申すのがありました。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
エーなんとも重々恐れ入りやした、田舎者で始めて江戸へめえりやして、亀井戸かめいどへ参詣して巴屋で一ぺい傾けやした処が、料理がいので飲過ぎて大酩酊おおめいていを致し
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「ちょっと伺いますが亀井戸かめいどへはどう行ったらいいでしょう。……たまという所へ行くのですが」と言う。
蒸発皿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
その頃流行った「一瓢を携えて」亀井戸かめいど臥龍梅がりゅうばいを見、少し廻り道をして、五つ目の羅漢寺に詣で、蠑螺堂の回廊をキャッキャッと騒ぎながら登ったのは、最早夕景近くなってからでした。
それがこのさびしい夜の仲通りを、しかも東から西へ向かって歩きながら、たまたま出会った自分に亀井戸かめいどへの道を聞くのは少しおかしいようにも思われる。
蒸発皿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
五渡亭国貞は「歌川を疑はしくも名乗り得て二世の豊国にせの豊国」の落首らくしゅ諷刺ふうしせられしといへどもとにかく歌川派の画系をつぎ柳島やなぎしま亀井戸かめいどとに邸宅を有せしほどなれば
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
貴方まアわたくしから幾許いくらふみを上げましても一度もお返辞のないのはあんまりだと存じます、貴方はもう亀井戸かめいどの事をお忘れ遊ばしたか、私はそればっかり存じて居りますけれども
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「これはこれは亀井戸かめいどの師匠。どうして手前共がここにいるのを御存じで御ざりました。」
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
午後ひるすぎから亀井戸かめいど竜眼寺りゅうがんじの書院で俳諧はいかい運座うんざがあるというので、蘿月らげつはその日の午前に訪ねて来た長吉と茶漬ちゃづけをすましたのち小梅こうめ住居すまいから押上おしあげ堀割ほりわり柳島やなぎしまの方へと連れだって話しながら歩いた。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)