主婦かみ)” の例文
グージャールが主婦かみさん相手に決闘場所の借り賃を値切ってる声が聞こえていた。ジュリアンは時間を無駄むだに費やしてはいなかった。
でぶ/\に肥つた四十あまりの主婦かみさんと、その妹だといふふくろふの様な眼をした中年の女とが、代る/″\店に出て始終客を呼んで居た。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
一週間ばかし前に傭った小僧が夜明けがたその主婦かみさんの枕頭に立ち斧を振って滅多打にしたのだ。犯人は有金を攫って逃げたらしかった。
雲の裂け目 (新字新仮名) / 原民喜(著)
然し庄吉はまた、大留の遊びを余り深入りさせないために惣吉は内々お主婦かみさんから大留につけられているのだ、ということをも知っていた。
少年の死 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
かういふ、冬が往つたばかりの時分に一人でひよつくり來たものだから、主婦かみさんは待ち設けない事で、どこかからだでもお惡いのですかと聞いた。
赤い鳥 (旧字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
神様はおいささんを呪禁ったかどうしたか? 私の耳へは、お主婦かみの話の代りに、女車掌の「お待ちどう様でした。××行きでございます……」
沼畔小話集 (新字新仮名) / 犬田卯(著)
『ぢやね、芳ちやんの樣な人で、モちつと許りお尻の小さいのを嫁に貰つて呉れたら、一生酒をめるからツてお主婦かみさんにそ云つて見て呉れ。』
菊池君 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
クラチットの主婦かみさんは彼に接吻した、娘達も彼に接吻した、二人の少年クラチットどもも彼に接吻した。そして、ピータアと彼自身とは握手した。
降誕祭ワイナハトの初めの日には、主婦かみさんが、タンネンバウムを飾るから手伝ってくれぬかと言うので、お手伝いしました。
先生への通信 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
背やそでに黄色い花びらをつけているお主婦かみさんや、娘たちは花の穂のなかに小腰をかがめ、めいめい両手を合わして、その生き神さまを拝んでくれる。
南方郵信 (新字新仮名) / 中村地平(著)
主婦かみさん、乃公わしはこゝで一寸天文学の講釈をするがね、すべてこの世界にある物は、二千五百万年経つと、また元々もと/\通りにかへつて来る事になつてゐる。
ついて行くと、伯父はもう下宿の下駄をつっかけて出てしまったあとで、帳場で主婦かみさんと女中が笑っていた。
斗南先生 (新字新仮名) / 中島敦(著)
八百屋のお主婦かみさんは押しが強くつて、まだ湯が沸いてゐないと云つても、ずん/″\先へ入つて、自分が出ると、直ぐにお爺さんを呼んで來て入れるんですよ。
水不足 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
小さんさんなども晩年は大したものでしたが、一時はビラを描いて、お主婦かみさんが常磐津の師匠をしてそれでやつと子供の手足を伸ばしたなんて言ふ話もあります。
燕枝芸談 (新字旧仮名) / 談洲楼燕枝 二代(著)
すると、待ち構えていたようにいちばんに上って来たのは、さっき見かけたこの家のお主婦かみなのです。
島原心中 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
主婦かみさんが起きて開けてくれ、そうそうと思い出したように、久能さん、お手紙、ああちゃんが預ってるわ、と少し皮肉らしくいったので、突嗟に久能は異常なものを感じた。
リラの手紙 (新字新仮名) / 豊田三郎(著)
我々が昼食をしたある村では、お主婦かみさんが我々の傍に膝をついて坐り込み、我々が何か口に入れるごとに、歯をむき出してニタリニタリと笑ったり、大声を立てて笑ったりした。
「お主婦かみさんはどうしたの」といいながら私はいつもの通り長火鉢の向うに坐った。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
帽子はお主婦かみさんにやってタオルを鉢巻にして出直したら今度は誰も笑わぬ。
放心教授 (新字新仮名) / 森於菟(著)
下宿のお主婦かみは、何時もながらの植民地帰りの寡婦らしい硬い声で、それでも弟の死だらうと、大概は見当が付いてゐたものとみえ、流石さすがに眼を伏せて、梯子段の中途から、ソツと電報を投込んだ。
亡弟 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
そこの主人も主婦かみさんも彼の顔は知っていた。
子をつれて (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
主婦かみさん、何か有ますか。』
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
例の菓子屋から、傘がないので風呂敷をかぶつて歸つて來て見ると、宿の主婦かみさんの渡してくれたのが、此手紙です。
雲は天才である (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
「あら、あなたも知ってるの……あの時はほんとに可笑しかったわ。でもあれは、私の知恵じゃないのよ。お主婦かみさんと二人で一生懸命に考えたのよ。」
反抗 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
恰度ちょうどその少し前、鴉が妙な啼きかたをしていたので、やっぱし、そうでした、と母は不思議そうな顔をした。それからつづいて、そこの主婦かみさんが殺された。
雲の裂け目 (新字新仮名) / 原民喜(著)
主婦かみさんとむすこは始終いろいろ話しておりましたが、兄妹の間にはいっこうなんの話もありませんでした。それでもネクタイはやっとできあがったそうでした。
先生への通信 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
料理が済むと、主婦かみさんは勘定書かんぢやうがきを持ち出した。天文学者はじつとその〆高しめだかを見つめてゐたが、暫くすると、望遠鏡とほめがねを覗く折のやうに変な眼つきをして主婦かみさんを見た。
そこの茶店のお主婦かみさんが、まア、しばらくですね、まだ時間があるようですから、こちらへ腰を下ろしてお待ちなせえよ、と言いながら、もうお茶など汲んで出してくれるのであった。
沼畔小話集 (新字新仮名) / 犬田卯(著)
僕は、お主婦かみが何かかしこまっていっているのを聞き流して、梯子段を降りたのです。
島原心中 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
しばらく自分の挫けた氣持を見探りつゝ、蒲團の襟を脱ぎ返さうとすると、さつきからじつと枕元に坐つてゐたらしく、直ぐにそれに手を貸してくれるのを、やつぱり主婦かみさんだと思つて
赤い鳥 (旧字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
「まあ、あれをお聞きよ、ピータア」と、クラチットの主婦かみさんは云った。
規則正しい、高いトヨのひづめの音が、静かな部落に響きわたると、往来にんやりたたずんでいたお主婦かみさんや、野良のら径をせわしげにしていた百姓たちは、驚いたように径をゆずって馬上をふり仰ぐ。
南方郵信 (新字新仮名) / 中村地平(著)
そこの主人も主婦かみさんも彼の顏は知つてゐた。
子をつれて (旧字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
彼は真直に帳場のお主婦かみさんの方へ行って、今迄の借りを全部払った。それからゆっくり階段を上っていった。
反抗 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
例の菓子屋から、傘がないので風呂敷を被つて帰つて来て見ると、宿の主婦かみさんの渡してくれたのが此手紙です。いくら読み返して見ても、矢張り老父おやぢが死んだとしか書いて居ない。
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
いちばん高い枝につるすには梯子はしごが入用でした。あぶないと言ったがきかないで、スタルク嬢がつるしました。その夜の十一時の汽車で主婦かみさんのむすこが帰って来るということでした。
先生への通信 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
『気が付きますと、お主婦かみが私の持っている短刀をもぎとっていたのです』
島原心中 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「えゝ/\、よござんすとも。」と主婦かみさんは愛相あいそ笑ひをしながら言つた。
そして、クラチットのお主婦かみさんや娘どもの出精と手ばやさとを褒めた。
息を切らした宿屋の主婦かみさんが、周章あわてふためいてやつて來た。
赤い鳥 (旧字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
「俺は働きがあるんだい。専太の野郎とはちがうんだからな。」と彼は云った。「惣吉や。」とお主婦かみさんは呼んだ。そして彼はよく昼過ぎのお茶受けを買いにやらされていた。
少年の死 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
話しかける主婦かみさんの言葉には碌々返辞もせずに、自分の用だけを頼んで——柳容堂からと云って電話がかかったら、つないだまま知らしてほしい、他の電話や訪客には一切
野ざらし (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「こないだね、親方が例の処へ行って朝遅く帰って来たもんだから、お主婦かみさんに小言を喰って喧嘩をおっぱじめたんだ。だが後でお主婦さんにあやまっていたよ。あめえんだな。」
少年の死 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)