中腹ちゅうふく)” の例文
それでその池の端から出て例のごとく羊を駆ってだんだん山に登ってある山の中腹ちゅうふくに参りまして遙か向うの方を見渡しますと大きな川がある。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
もうひとここ景色けしきなかとくわたくしいたものは、むかって右手みぎてやま中腹ちゅうふくに、青葉おおばがくれにちらちらえるひとつの丹塗にぬりのおみやでございました。
けわしいがけ中腹ちゅうふくを走っている列車は、それと同時どうじすうしゃくの下にいわをかんでいる激流げきりゅうに、墜落ついらくするよりほかはない。
くまと車掌 (新字新仮名) / 木内高音(著)
まだ一も二里もさきがある勝負なら、なんとかそれだけの距離を取りかえすことができようが、たしかここから十二、三ちょうのぼった中腹ちゅうふくがれいの大鳥居おおとりいだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
アイピング村から二キロほどへだたったところにあるおか中腹ちゅうふくに、ひとりのこじきがすわっていた。
毎朝まいちょう役所へ出勤する前、崖の中腹ちゅうふくに的を置いて古井戸の柳を脊にして、凉しい夏の朝風あさかぜ弓弦ゆみづるならすを例としたがもなく秋が来て、朝寒あささむある日、片肌脱かたはだぬぎの父は弓を手にしたまま
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
ある人はわたしたちを山の中腹ちゅうふくつくりかけた別荘べっそうへ行かせた。また一人は、その人たちは湖水のそばに住んでいると断言だんげんした。なるほど山の別荘に住んでいるのもイギリスのおくさんであった。
まえにも申上もうしあげたとおり、わたくし修行場しゅぎょうば所在地しょざいちやま中腹ちゅうふく平坦地たいらちで、がけうえってながめますと、立木たちき隙間すきまからずっと遠方えんぽうはいり、なかなかの絶景ぜっけいでございます。
ふたりはまず、八つう間道かんどうをぬけて、いま山の中腹ちゅうふくにみえた味方みかたびいれてこようとするつもり。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おやじの葬式そうしきは風のつめたい、さむい寒い日だったよ。ぼくはおやじがさびしいおか中腹ちゅうふくにほうむられるのをみても、考えるのはただ研究けんきゅうのことばかりで、さびしいともかなしいとも思わなかったんだ。
これから御岳の中腹ちゅうふくまでりて、渓谷けいこくをわたり、それから白鳥しらとりみね大鳥居おおとりいまでいってかえってくるという遠駆けに、いくら名馬の手綱たづなをとったところで、しょせん、どうにもなりゃあしまい
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)