三重みえ)” の例文
島々の数を尽してそばだつものは天をゆびさし、伏すものは波にはらばう、あるは二重ふたえにかさなり三重みえにたたみて、左にわかれ、右につらなる。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
其處からおいでになつて、三重みえの村においでになつた時に、また「わたしの足は、三重に曲つた餅のようになつて非常に疲れた」
「このお座敷はもろうて上げるから、なあ和女あんた、もうちゃっと内へおにや。……島家の、あの三重みえさんやな、和女、お三重さん、お帰り!」
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それから宿直とのいのさむらいたちをはじめ、お供のなかから、腕ききをよりだして三十人ばかり、上段の間を二重ふたえ三重みえにおっとりかこんで阿部豊後守忠秋ただあきが大将になり
幻術天魔太郎 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
三重みえ県です。最近始めてこちらへ出て来まして、今勤め口を探している様な訳です」
モノグラム (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「わしの足はこんなに三重みえに曲がってしまった。どうもひどくつかれて歩けない」とおっしゃいました。しかしそれでも無理にお歩きになって、能褒野のぼのという野へお着きになりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
この年もまた卒業生の決口はけくちすこぶる多かった。保の如きも第一に『三重みえ日報』の主筆に擬せられて、これを辞した。これは藤田茂吉もきちに三重県庁が金を出していることを聞いたからである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
三重みえにうねる細き金の波の、と合うてふくれ上るただ中を穿うがちて、動くなよと、安らかにえたる宝石の、まばゆさはあめしたを射れど、こぼたねば波の中より奪いがたき運命は、君ありてのわれ
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
……うばの形相は、絵に描いた安達あだちヶ原と思うのに、くびには、狼のきばやら、狐の目やら、いたちの足やら、つなぎ合せた長数珠ながじゅず三重みえきながらの指図でござった。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのお毛をそのままそっとおかぶりになり、それからお腕先うでさきのお玉飾たまかざりも、わざと、つなぎのひもくさらして、お腕へ三重みえにお巻きつけになり、お召物めしものもわざわざ酒で腐らしたのをおめしになって
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
かざりの鳥には、雉子、山鶏やまどり、秋草、もみじを切出したのを、三重みえ七重ななえに——たなびかせた、その真中まんなかに、丸太たきぎうずたかく烈々とべ、大釜おおがまに湯を沸かせ、湯玉のあられにたばしる中を、前後あとさきに行違い
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
夜叉羅刹やしゃらせつ猶予ためらわず、両個ふたり一斉に膝を立てて、深川夫人の真白き手首に、黒く鋭き爪を加えて左右より禁扼とりしばり三重みえかさねたる御襟おんえり二個ふたりして押開き、他目ひとめらば消えぬべき、雪なす胸のの下まで
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
三重みえにも折った手拭はちゃんと顔半分おおうている。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)